アスリートから一転、料理の道へ-。陸上の世界選手権女子400メートル障害の元日本代表で、昨秋に現役を引退した宇都宮絵莉さん(32)=兵庫県尼崎市=が、料理のレシピを自作して交流サイト(SNS)で発信している。種目転向などの成功体験から、「やってみないと分からない。考えるより前に行動を」という思考が土台に。自らの競技人生を支えた食を極め「苦手な人でも料理をしたいと思えるようにハードルを下げたい」と願う。(井川朋宏)
同県加古川市で育ち、平岡南中、園田高では走り幅跳びで全国制覇を果たした。園田女大(現園田学園大)で始めた七種競技でも国内トップレベルに。実業団の長谷川体育施設に進み、日本歴代4位の記録を持つ。
世界を目指し、並行して取り組み始めた400メートル障害でも開花し、2018年に日本選手権で初優勝。23年にハンガリー・ブダペストであった世界選手権初出場を遂げた。予選敗退も「幸せな思い出として忘れられへん」と感慨を込める。
昨夏のパリ五輪出場を逃したことで、「素直に閉幕みたいな気持ちになった」と引退を決意。周囲への感謝を込め、地元兵庫を背負う昨秋の国民スポーツ大会で締めくくった。
■陸上やりきった
「人生を懸けてきた陸上はやりきった。全然違う好きなことを仕事にしたい」。そう考えたとき、「料理やな」と思い立った。
料理は幼少期から母親に付いて包丁を握り、自然と身についた。小学1年生の頃に「卵焼きを巻けたのがうれしくて、毎日つくっていた」。社会人となって1人暮らしを始め、選手として自己管理するため栄養を学び、日々3食を自炊。大けがをせず激しい練習を重ねられたのも、食事が大好きだったからという。
2020年から続いた新型コロナウイルス禍では自宅で過ごす時間が増え、民間資格のスポーツフードマイスターや食育健康アドバイザーなどを取得。「学んで知識が増えれば料理もより楽しくなった」と話す。
23年には、元陸上短距離選手でボクシングに転向した木村淳さん(34)と結婚。試合前の減量時は体調を見てカロリーを計算して栄養を管理し、支えている。
■答えがない面白さ
今年に入り、X(旧ツイッター)やインスタグラムで、アカウント名「えりの台所」でレシピを掲載する。得意料理からアレンジした新作まで100種類以上。「答えがないから面白い」と、その奥深さを語る。最近は週1回程度のペースで旬の食材を使った料理を紹介し、写真や動画の撮影から編集までこなす。
7月には、陸上仲間2人と一日限りの食堂を初めて大阪で開いた。11月も含めて今後も開催予定。「皆が笑顔になり、新たなつながりができたら幸せ」とほほ笑む。
引退から1年。中学から全国トップを走り続け、「ずっと気を張っていたので心が落ち着いている。嫌いなわけではないけど、今は走りたいと思わない」と冗談交じりに語る。
新たな夢はレシピ本の出版だ。「どこの家にでもある身近な食材で緩く楽しくつくれて、幅広い世代が味わえる料理を届けたい」。万能ハードラーは、これからもどんな障害も貪欲に飛び越える。
■主な陸上競技の戦績■(丸中数字は順位)
2008年 全国中学校体育大会走り幅跳び①5メートル62
11年 全国高校総体走り幅跳び①6メートル14
15年 アジア選手権七種競技⑦5171点
17年 アジア選手権七種競技⑤5586点
18年 東京混成競技大会七種競技①5821点
18年 日本選手権400メートル障害①57秒37
18年 アジア大会400メートル障害⑦58秒97
女子1600メートルリレー⑤、混合1600メートルリレー⑤
21年 東京五輪テスト大会400メートル障害①56秒50
23年 アジア選手権400メートル障害②57秒73
23年 世界選手権400メートル障害 57秒98(予選落ち)
























