広畑中学校のバレーボール部員にブロックの構えを教えるヴィア-レ兵庫の閑田千尋選手(左端)=姫路市広畑区小松町3
広畑中学校のバレーボール部員にブロックの構えを教えるヴィア-レ兵庫の閑田千尋選手(左端)=姫路市広畑区小松町3

 指導者がいない。いても謝金を出せない-。中学部活動の地域展開(地域移行)を見据えて各地で模索が続く中、バレーボールSVリーグ女子ヴィクトリーナ姫路の取り組みが注目されている。傘下の「ヴィアーレ兵庫」の選手を姫路市内の部活動に派遣するが、報酬を協賛企業が賄うため、保護者負担はゼロ。選手の引退後、支援企業で働きながら指導を続ける計画も進む。スポーツ庁によると全国的に珍しい試みで、クラブは「姫路モデル」として定着を図る。(有島弘記)

 「基本的な技術を教えられても、レベルが高い生徒には知識や経験がある人の方がいい」

 10月までに市内最多18回の派遣を受けた広畑中(姫路市広畑区)の女子バレーボール部顧問、三木梓さん(25)の競技経験は中学生の時だけ。練習のメニュー作りも手伝ってくれるといい「やらなアカンというプレッシャーが軽くなった」と感謝する。

 同22日にはセッター閑田千尋選手(23)とリベロ勝又夏妃選手(23)が同校を訪れた。実戦形式の練習を通じて守り方を落とし込み、経験の浅い部員にはレシーブの構えから教えた。

 ヴィアーレには選手10人が在籍。午前中に練習し、各校には、なるべく同じ顔ぶれが足を運ぶ。広畑中の保井李藍主将(13)は「安心感があるし、自分では気付いていないことをアドバイスしてくれる」と慕う。閑田選手は「子どもたちに教えることで原点に戻れ、プレーに還元されている」と好循環を口にする。

 ■競技人口激減に危機感

 SV姫路によると、2016年のクラブ発足当時、姫路市の女子小学生の競技人口は国内最多規模だったが、この10年でチーム数が男女混合を含む32から13まで激減。関口博之アカデミー事業本部長(56)は「市の人口減よりも加速度的。子どもたちを育てるサイクルをつくらないといけない」と今春、社会課題にもなっている部活動改革に着目し、派遣事業を始めた。

 各校の要請に応じて送り出すが、ボランティアでは長続きしないため、財源の確保に向けて地元企業にも協力を求めた。「地域貢献と将来的な人材確保。この二つの提案をメリットに思ってくれた」と関口本部長。次のような仕組みだ。

 スポンサー料が選手への謝金となり、代わりに専門的な指導を生徒たちに届けられる。現役を終えた選手と意向が合えば協賛企業が採用し、社業とともに地域で指導を続けてもらう。長い目線で子どもたちのバレー環境に関わることができる。

 事業開始後、専門商社や生花業など選手の雇用を望む6社を含め、運営予算をクリアする企業が集まったという。

 中学校への派遣数は10月末までに市内19校、計約180回。関口本部長は「学んでいない選手は現場に立たせない」と言い切り、プロ野球北海道日本ハムファイターズ時代に大谷翔平選手らをサポートし、オリックス・バファローズのリーグ3連覇にも貢献した運動理論の専門家、中垣征一郎さん(55)をアドバイザーに迎え、定期的に養成プログラムを実施する。

 選手の海外挑戦も後押しし、来年1月まで3人がモンゴルのトップリーグにレンタル移籍。経験を帰国後の指導に生かしてもらう。

 ■脱「単発」へ事業拡大も

 スポーツ庁によると、プロクラブによる指導者派遣はイベント的な取り組みがほとんど。自前で中学生年代のチームを保有したり、日常的に子ども向け教室を開いたりしているためで、広がりを欠く。来年9月に地域展開を始める西宮市も阪神タイガースやバスケットボールBリーグ2部、神戸ストークスなどと連携協定を結ぶが、単発での指導を想定しているという。

 日本部活動学会副会長で兵庫教育大大学院の森田啓之教授はSV姫路の派遣事業について「トップチームが地域に根差すという意味でも評価に値し、指導の質の担保は保護者にとってありがたい」と話す。一方で、兵庫県2番目の人口規模でスポンサー候補が多い姫路市だからこそ成り立つ側面があるため、森田教授は「人口の少ない周辺地域への事業拡大に加え、指導の持続性を考えれば派遣だけでなく、中学生を受け入れるクラブの立ち上げも考えてほしい」と指摘した。