上下水道施設の老朽化が各地で進み、先行して整備された大都市圏を中心に道路の陥没事故や広範囲の冠水などが発生、課題となっている。平成期に集中して整備した小規模自治体では間もなく、多くの区域で更新時期にさしかかる。人口減少への対応や耐震化も求められ、ライフラインの維持に向け、対策が急がれる。(小日向務)
上水道の施設は、多くの地域で高度成長期の1960~70年代に本格的な普及が始まったとされる。都市部では同時期に下水道の整備も始まった。
兵庫県では、91年度から市町と連携して公共下水道や農業集落排水などの整備を促す「生活排水99%大作戦」を展開し、県や国の補助を利用して下水道の敷設を進めた。併せて上水道を整備した市町も多い。
朝来市では、井戸などを水源とする各家庭の簡易的な水道が高度成長期から順次、上水道に切り替えられた。平成期に下水道を整備した地域で拡張、交換した管路が多く、総延長約420キロの基幹水道管のうち約200キロが92~98年に敷設された。
法定耐用年数の40年を超えた水道管の割合を示す経年化率は2024年度で13・1%と、県内平均の29・3%を下回る。40年は減価償却期間で実際の使用年数は60年とされるが、更新時期を分散するため、本年度に対応計画を策定する。水道管の耐震化は更新に合わせて進める。
同市の人口は、現在の2万7千人余りから33年に1割以上減少するとされ、小規模な簡易水道を市水道事業に統合し、浄水場を統廃合するなどしている。
加えて下水道管も敷設50年後に更新時期を迎える。
水道施設の整備などに使える予算は年約2億円だが、同市の場合、水道管の更新は1キロ当たり約1億円がかかる。全額で更新しても全長の0・5%程度しかカバーできない。
職員数の削減や行政需要の多様化が進んで上下水道の担当職員は減っており、人工知能(AI)を使って水道管の劣化状況や漏水部分を調べるなど、省力・効率化を進めている。
同市上下水道部の佐野正彦部長は「県や国の補助が増えたとしても職員が少なく、対応できない。現状のままでは上下水道の維持すら難しい」と険しい表情で話す。
■40年を経過した上水道、20年後には66%に
2024年度から、国の上下水道行政が国土交通省に一元化され、同省は今年6月に「上下水道政策の基本的なあり方検討会」の第1次とりまとめを公表した。老朽化などの課題やサービスの持続的提供に向けた考え方を示している。
全国の上水道では、法定耐用年数の40年を経過した割合が21年度の22%から10年後に41%、20年後には66%になるという。下水道も標準的な耐用年数50年を超えた管路が、22年度の7%から10年後に19%、20年後は40%に急増する。
検討会は、上下水道の持続性確保へ広域化などを提言した。運営規模を広げて効率化し、小規模自治体で課題となっている職員数の少なさなどに対応する。
大阪市は100%出資の株式会社を設立し、下水道施設の運転や維持管理などを任せる。同社は府内外の自治体から事業を請け負う。奈良県では26市町村と県が広域水道企業団を設立、今年4月から水道水の供給を始めた。
これらの事業に携わる追手門学院大学地域創造学部の藤原直樹教授(自治体経営)は「施設の老朽化や人口減少が進み、上下水道の事業広域化や民営化などが必要。現在の上下水道料金は設備更新が前提になく、値上げは避けられない。住民側も必要な受益者負担を確認するべき」と訴える。