9月1日に解禁された日本海の沖合底引き網漁やベニズワイガニ漁で、各漁船は船員の熱中症対策に力を入れている。近年の気温上昇で海上でも熱中症リスクが高まり、陸に運ぶまで時間がかかる沖合で倒れると命の危険に関わるためだ。10月半ばまで気は抜けず、現場の漁師からは「9月の操業が厳しくなっている」という声も聞かれる。(長谷部崇)
関西では兵庫県香美町の香住漁港だけで水揚げされるベニズワイガニ。餌入りのかごを水深千メートル前後に沈める「カニかご漁」で大型船1隻と小型船8隻が9月~翌年5月に操業する。帰港まで半日程度かかる小型船は3、4年前から暑さの厳しい日中を避け、夜間に操業するよう取り決めている。
それでも昨年9月、香住沖約60キロで操業中の小型船で50代の男性漁師が熱中症とみられる症状で倒れ、搬送先の病院で亡くなった。香住海上保安署の巡視艇が急行し、香住漁港まで運んで救急隊員に引き継いだが、病院に着いたのは通報から約4時間半後だった。
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福井県から島根県までの日本海を管轄する第8管区海上保安本部が把握した乗船中の熱中症の件数は、昨年6件に急増した=グラフ。うち4件が漁船で、発生は全て9月だった。
美保航空基地(鳥取県境港市)からヘリコプターも出動するが、悪天候の日は飛べず、海の状況によっては船に近づくことも難しいため、巡視艇を含めケース・バイ・ケースで救助法を選択するという。
今年6月には、厚生労働省が定める労働安全衛生規則の一部改正で、職場の熱中症対策が義務化された。漁船にも早期発見の体制整備などが求められている。
香住のベニズワイガニ漁の小型船8隻は今年から熱中症に対応する保険に加入し、船員は自動体外式除細動器(AED)の使い方の講習を受けている。うち4隻は船に日よけのテントを設置した。
かごの引き揚げ作業は重労働で、6人で操業する小型船「栄福丸」の稲葉貴之船長(54)は「しぶきにぬれないようかっぱを着込むと、下着や長靴の中も汗でびっしょり」と説明。小まめな水分補給と休憩を心がけ、足がつるなどの症状が出たら早めに言うよう船員に呼びかける。「海に救急車は来てくれないし、一人でも欠けると次からの出漁が危ぶまれる。10月半ばごろまでは気を抜けない」
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沖合底引き網漁船も漁期は同じ9月~翌年5月。香美町の柴山港を拠点とする「栄正丸」は4年前に大型扇風機4基を整備した。「船はエンジンの熱がこもりやすく、気温上昇による船員の負担を考えると9月の操業は年々厳しくなっている」と村瀬浩志船長(63)。
同じ柴山港の底引き網漁船「西善丸」はこの時期、エビを狙って島根県の隠岐諸島北方で操業する。エビは網を引き揚げるまでの時間が長く、船員たちの休憩時間に充てる。西村佳典船長(53)は「ぶっ続けで仕事すると熱中症で倒れてしまう。冷房の効いた船員室で休ませている」と話す。