「健常」と「障害」の枠を超え、二つのサッカーで活躍する選手がいると聞いて、流通科学大学(神戸市西区)サッカー部が練習するグラウンドに足を運んだ。
「前向かせるな!」「OK! OK!」
選手たちの中でひときわ大きな声で指示を飛ばすゴールキーパー(GK)。則末遼斗選手(20)=神戸市垂水区=は聴覚障害があり、補聴器を付けてプレーする。同時に聴覚障害者向けのデフサッカー日本代表でもあり、11月には東京を中心に日本で初めて開かれる国際スポーツ大会「デフリンピック」に臨む。(那谷享平)
■練習メニューや扱いに違いはなし
フォワードが近距離から放った低めのシュートに、素早く脚を伸ばし、ボールのコースをそらす。「ノリ、ナイス!」。ディフェンダーたちが声をかける。身長178センチ。反応とポジショニングの良さを生かしたシュートストップが光る。
流通科学大は関西学生リーグ3部に所属し、90人の部員を要する。3年生の則末選手はGKのポジション争いで3番手につけている。週6日のチーム練習と週末の試合、自主練に筋トレ…。ピッチ上での扱いに他の学生との差はない。
ただ、その両耳には透明な補聴器を装着している。
「小さい頃から、眠る時と風呂以外はずっと着けています」
則末選手の障害は先天性の感音難聴。身体障害者手帳の等級は、聴覚障害で最も重い2級だ。補聴器がなければ日常の音は聞こえず、ほとんど無音の世界。聴力は「飛行機のエンジンの音なら近くで聞こえるくらい」という。
補聴器があっても、意識していない方向からの音は聞き取りが難しい。例えば、チームで一人だけ雷鳴に気づかないことがある。人の言葉は読唇で補っており、チーム全体に呼びかけるコーチの声は表情が見えないと聞こえない。