13日に開幕する陸上の世界選手権東京大会。女子やり投げでパリ五輪金メダルの北口榛花(JAL)や、同種目男子のディーン元気(ミズノ、市尼崎高出身)ら日本代表十数人が使うシューズは、スポーツ用品大手ミズノのグループ工場(宍粟市山崎町)で、亀井晶さん(55)=たつの市=が作った。1991年に開かれた前回の東京大会をきっかけに、この道を志した職人は「普段以上に作業に気持ちが入った。感動的なシーンをまた見たい」とほほ笑む。(伊丹昭史)
名古屋市出身で大学まで陸上に励んだ。その4年時に見た東京大会でカール・ルイス(米国)の快走に衝撃を受ける。彼が履いていたのが、就職が決まっていたミズノのスパイクだった。「自分も製作に関わりたい」。営業職を十数年務めた後に異動が実現し、下積みに約10年。40代半ばとなった2016年のリオデジャネイロ五輪後に仕事を一任された。
近年の規制強化で選手個別への細工が限られる中、こだわるのはフィット感。足の形の計測だけでなく選手らの感触、要望を丁寧に聞き、靴型に厚さ数ミリの革を張って形を少し変えたり、足を包む生地の張りに強弱をつけたりと、細かい調整が腕の見せどころだ。
「いい練習を積めている選手はぜい肉が落ちて足がやせる。逆に冬は足が脂肪をためようとして太くなる。むくみなども考えて対応しています」
ディーンや北口らとは、その学生時代からの付き合い。ディーンは感覚が繊細で、生地の伸縮の違いなども感じ取って連絡してくる。当初要望が少なかった北口も、チェコに拠点を移した19年以降は増えたという。
製作はほぼ1人で手作業。緊急の依頼にも極力応じてきたが「つらいと思ったことはない」と言い切る。「ミズノで陸上選手の靴を作っているのは自分だけ。シューズが不具合なく、選手の好結果につながってくれれば」と期待を寄せる。