兵庫にとって昨年秋の知事選後初の大型選挙となる参院選がスタートした。
県民に深刻な分断を生むきっかけにもなった知事選は、私たちに大きな課題を突きつけた。選挙期間中、「公正・中立な報道」を過度に意識するあまり、質も量も十分な情報を発信できなかった。虚偽や真偽不明の情報が交流サイト(SNS)などで急激に拡散するのを横目に、いわば沈黙してしまった。読者の皆さんからは「何が真実か分からない」「なぜ報じないのか」といった戸惑いや批判の声が数多く寄せられた。
何のための選挙報道か。地元紙にできることは何なのか-。編集局内で原点に立ち返って議論し、今年4月、選挙取材・報道の新たな指針をまとめた。
指針の柱は「選挙期間中でも読者やユーザー、有権者の判断に資する情報を積極的に発信する」ことに尽きる。たとえ特定の候補者や政党に不利になる可能性のある情報でも、人権やプライバシーに注意した上で報じる。発信するのはもちろん、兵庫に根を張った記者たちが丁寧に取材し、神戸新聞として事実と判断した情報だ。
そのためには、ネット上で飛び交う情報が正確かどうか確認する「ファクトチェック」も欠かせない。6月中旬、日本でファクトチェックを推進する認定NPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」と連携する態勢を整えた。紙面と電子版神戸新聞NEXTに新コーナー「ファクト検証 気になる情報調べます」を設け、参院選に備えてきた。
一方で、知事選の際に多数確認された記者個人に対する誹謗中傷には、法的措置も含めて社として毅然と対応する。記者を守ることが事実の発信を支え、読者の知る権利に応えること、健全な民主主義を守ることになると信じている。
兵庫選挙区には13人が名乗りを上げ、全国屈指の激戦区となった。報じる私たちにとっても真価を問われる17日間になると肝に銘じている。