昨年3月に本欄で、日本産シソ科タツナミソウ属新種候補を二つ抱えているという話を書きました。
その後、無事に記載論文が受理され、今月出版されることになりました。正式に新種として認められたということです。
一つはシコクタツナミソウ(S.epunctata)、もう一つにはキビノタツナミソウ(S.kibiensis)という名前を付けました。
現時点では前者は徳島、香川、愛媛県に1カ所ずつ、後者は岡山から広島、島根県と中国地方に点々と分布していることが分かっています。でも、私たちはなにも未開の地を探して調査を行っていた訳ではありません。
シコクタツナミソウは、東京大学におられた原寛先生(1911~86年)がハナタツナミソウの変種として認識していました。写真は、東大の植物標本庫に所蔵されている、ある標本に貼られたラベルです。ラベルの製作者は、筆跡から原先生と分かります。
このラベルには採集者名、採集日、採集場所の他、ハナタツナミソウの変種であることを意味する学名(Scutellaria iyoensis Nakai var. epunctata H.Hara)、ハナタツナミソウとの識別形質を表すメモ(Folia rotundato‐serrata brevi‐petiolata, subtus epunctata)が書かれていました。
このことから原先生はこの標本の植物、をハナタツナミソウの新変種と認識し、発表されるおつもりであったことが伺えます。
ですが、ついに論文を発表することはなく、ラベルに残された学名も未発表のまま現在に至りました。
その後、四国ではハナタツナミソウと混同されてきました。今回行った分子系統解析によって、シコクタツナミソウはハナタツナミソウに近縁だが独立したグループであることが示されたため新種として記載を行いましたが、原先生に敬意を表して種小名の「epuncata」はそのまま採用しました。
「epuncata」は「点状の」「点々がある」という意味のラテン語「punctata」に「外へ」を表す接頭辞「e」がついて、「点状でない」という意味を表す語です。
ハナタツナミソウは葉の両面に、黄色い腺点が一面に点々とあることが特徴の一つですが、シコクタツナミソウの葉にはそのような腺点がないことを表したかったのでしょう。
キビノタツナミソウは、岡山ではハナタツナミソウと、広島ではヤマジノタツナミソウと混同されていましたが、分子系統解析と外部形態の解析により独立した分類群であることが明らかになりました。
今回の2新種は、似た植物に紛れて見過ごされていたのです。日本は植物についてよく調べられた国ですが、こんな形の新種発見はまだまだ続きそうです。