マンション管理組合役員の担い手不足を受け、管理を管理会社などに任せる「外部管理者(第三者管理)方式」が注目されている。住民の高齢化を背景に、負担の大きい理事会をなくし、専門的な知識のある業者に託す仕組み。一方で、管理会社による関連会社への発注で修繕工事が割高になるなど、利益相反となる事態も指摘されている。専門家は「あくまで最後の選択肢にすべき」と安易な移行に警告する。(斉藤正志)
■新たな選択肢
国土交通省は2016年、マンション管理規約の標準モデルとなる「標準管理規約」を改正した。理事は区分所有者に限っていたが、第三者も理事に就任できると改めた。
外部専門家を管理者にして、理事会を廃止することも可能に。つまり、区分所有者が理事になる必要はなく、管理会社などに「丸投げ」できる仕組みだ。
だが、外部専門家としてマンションの管理者や理事長を務めた経験のあるマンション管理士、藤谷弘光さん=神戸市=は「まずは専門家に相談し、情報を得てからじっくり考えることが大切だ」と話す。
藤谷さんは過去に、慌てて第三者管理を導入しようとしたために、取り返しのつかない結果になりかけた事例を見てきた。
■管理者を規約で固定
22年、兵庫県内のあるマンションが外部管理者方式を採用し、管理会社の言われるままに規約を変えようとしていた。
管理会社が提案した管理規約の変更案には、驚きの一文が入っていた。
「管理者は○○○とする」(○は具体的な管理会社名)
会社名を明記していた。
この案がそのまま議決されると、管理会社を代えるには、管理規約を改正しなければならなくなる。
管理規約は住民たちに課すルールであり、意思決定の在り方も定めた「マンションの憲法」だ。
改正には総会で区分所有者の4分の3以上の賛成が必要となるため、ハードルが高い。
しかも、理事会がなくなるため、その決議を得るための話し合いも難しくなる。
管理規約に会社名を盛り込むのは、契約相手を変更しにくくする意図があると疑われる行為だった。
■「監視役」の削除
さらに管理会社の業務を監視する「監事」についての記載が、削除されていた。
監事は、管理者を変更したい場合に総会を開くことができ、いわば管理会社への「歯止め役」となる。
その大事な役職が、なくなっていた。
また、総会は区分所有者の5分の1の請求でも開くことができるが、その際に本人確認のために印鑑登録証明書の提出を義務付ける内容になっていた。
区分所有者に煩わしい手続きを強い、総会開催のハードルを上げていた。
これらが盛り込まれた管理規約は何十ページもあり、専門的な知識がないと詳細まで吟味することは困難だ。
管理会社は、区分所有者に知見がないことに乗じて十分な説明をせず、議論の開始からわずか半年ほどで重大な変更をしようとしていたという。
一部住民の反対により、管理会社名を明記した部分は削除され、「管理者は総会の決議によって選任し、解任できる」と変更された。
しかし監事の削除など、他の変更部分はそのまま総会で議決されたという。
藤谷さんは「管理会社が自分たちを守り、利益を得るために規約を変えようとしたと疑われても仕方のない内容だった」と話す。
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マンション第三者管理の落とし穴<2>では、問題も多い外部管理者方式が広がりを見せる背景や、区分所有者にとってのメリット、デメリットを解説する。