高齢化社会の進展とともに、シニアの美容に関心が集まる中、美容医療クリニックの門をたたく中高年男性が増えているという。交流サイト(SNS)で体験談を目にし「プチ整形」に踏み出す人が多いようだ。失敗やトラブルも起きており、日本美容外科学会(JSAPS)専門医の一瀬晃洋医師に、手を出してはいけない治療法と、絶対避けたいクリニックを聞いた。(山岸洋介)
■見た目が10歳若返る
神戸大学医学部付属病院は2007年、全国の国立大に先駆けて美容外科を設けた。一瀬医師はここに長く勤め、現在は尼崎市の「いちのせ形成外科皮膚科 眼瞼(がんけん)フェイスクリニック」で診療に当たる。
一瀬医師によると、同クリニックの患者に占める男性の割合は約2割。18年の開業から大きく変わっていないが、全体の人数が増えているため、「男性も大きく伸びていると言える」という。
老け顔を若々しくするには、まぶた▽肌▽しわ、たるみ-の施術が効果的といい、「見た目が10歳くらい若返る人もいます」。最近はメスではなくレーザーや注射、針と糸などを用いる「切らない治療」が9割と言われる。
■最新治療は「人体実験」
「プチ整形」ブームやSNSの影響で一歩を踏み出す人が増える中、一瀬医師は「美容医療は安全性が検証されていない治療も多く、リスクが高いことを理解しておくべき」と警鐘を鳴らす。
その上で「受けない方が無難」とするのが、『最新』をうたう治療だ。「新しい治療といえば魅力的に聞こえるが、その多くはまともな治験も済んでいない不確かな治療で、まるで人体実験に協力するようなもの」と厳しい。
一瀬医師は「安全性の確認されていない薬剤を注入され、顔がデコボコになって取り返しのつかないことになった人もいる」と語る。
■こんな医師はNG
治療内容だけでなく、それを提供するクリニックの選び方も難しい。一瀬医師は「一つの基準は、フォローがちゃんとしているかどうか」と話す。
いちど受診して、予期せぬトラブルが起きても「責任を持って対応してくれそう」と思えるような医師を選ぶべきと提案。一方、絶対やめた方がいいのは、カウンセリングを看護師や事務員にさせて、治療のときだけ医師が出てくるクリニックだという。
一瀬医師は「美容医療で失敗しないためには、医師と相談して適切な治療を選択しなくてはいけない。そのためには患者さん自身の勉強も必要だ。賢い患者になり、慎重に医師を選んでほしい」と呼びかける。
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「美容医療 中高年も熱く」では、アンチエイジングに効果的な美容医療のポイントや、失敗しないためのクリニックの選び方など、一瀬医師のインタビューをさらにくわしくお伝えします。
【一瀬晃洋(いちのせ・あきひろ)】長崎県出身。1993年、神戸大医学部卒。2018年に神戸大医学部付属病院の美容外科を退職し、尼崎市に「いちのせ形成外科皮膚科 眼瞼フェイスクリニック」を開業。顔のアンチエイジング治療に加え、眼瞼下垂などまぶたの治療をライフワークとしている。