夕闇に体育館の灯(あか)りが浮かび上がる。在校生らの拍手が響く中、岡田喜代子さん(74)が紅白幕をくぐった。71歳で定時制の琴ノ浦高校(尼崎市北城内)に入学。孫より年の離れた同級生らと3年間、机を並べた。男子生徒をしかったあの日。親友と過ごしたあの場所。一つ一つの思い出をかみしめ、凜(りん)とした表情で卒業式に臨んだ。
1949年9月、埼玉県飯能市で公務員の父と主婦の母の間に生まれた。2歳上の姉を含む4人暮らしで、生活に不自由はなかった。中学時代の夢は高卒以上が応募条件の百貨店に勤めることで、進学を考えていた。しかし父は「早く手に職を付けてほしい」と反対。姉と同じく理容師になるよう強いられた。
嫌々進んだ理容学校で1年間、調髪を学んだ後、市内の理髪店に住み込みで就職。仕事は雑用ばかりで、「指に力がない」と店主へのマッサージを強要されることもあった。