「面白い仕事をやろう!」。地域の足として親しまれてきた神姫バス(姫路市)。4年後に設立100年を迎える。今、目指すは、地域を元気にする「まちづくり・地域づくり企業」だ。今年で社長就任10年となる長尾真氏(63)は、社員を鼓舞しながら、引っ張る。
10年。あっという間でした。将来にわたって「地域になくてはならない企業」を目指し、事業を開拓してきたつもり。が、まあ、好き勝手やってきました。
4年前には、ベンチャー支援の投資ファンドを設けました。バス会社が?と珍しがられます。移動手段をITで便利にするとか、会社や地域に新しい風を吹き込むとかしたいし、若い起業家を応援する意味合いもあります。出向して起業した当社の社員が始めた「サウナバス」の会社にも出資しました。次は「託児バス」だそうで、張り切っています。
バスで客と一緒に農産物を運ぶ「貨客混載」、特別車両の高級ツアー、高齢者の健康づくり支援、地域の特産品や観光体験を発掘し販売するECサイト…。バス会社の殻を破ろうとしている。
いろんなことに手を出しましたが、実を結んでいるかというとまだ途上。社員にも苦労をかけています。ただ、社内の空気とか、神姫バスという会社のイメージは変えられたかな、と思います。
当社の行動指針は「誠実に、果敢に、おもしろく」。設立90周年に策定しました。バス会社は誠実さも果敢さも必要。そこへ、京都の堀場製作所の社是をヒントに「おもしろく」を加えた。同期の仲間と、「これええな」と、面白がって。
仕事は自主的にやれば面白くなるし、仕事で地域を面白くすれば、会社も輝く。若手には「自分で仕事を面白くしようや」と呼びかけています。それと、「もっと遊べ」と。いろんなものを見て、人の輪を広げてほしい。
とにかく若手が好きでして。「何、悩んでんねん」と応援したくなる。一生懸命な人はもちろん、今は一生懸命できていない人も、どうにか仕事を面白くしてあげたい。楽しさを感じ、意地も張って仕事をしてきた若いころの自分を、彼ら彼女らに重ねているのかもしれません。
加西市で育ち、姫路市の淳心学院中・高から早稲田大政経学部へ。神姫バス就職は、父とその友人の言葉がきっかけだった。
小さいころ、スケートリンクまで乗車したり、通学や模試で加西から姫路へ乗って行ったり。神姫バスは身近でした。
大学時代はバブル期の前で、派手な人が多く、ポルシェで通う学生もいた。東京は、田舎者が住んで仕事する場所じゃないな、と。就職先に川崎重工業やワールドを考えていたら、父の友人が「神姫バスがええんちゃうか。神戸もええけど、姫路もどないや」と。父も、地元企業で取締役を務めたので、「大企業では難しくても、神姫なら役員を目指せる」と言い出しまして。正直、会社のことはほぼ知らない状態で面接を受けました。
実際のところ、社長になれるかどうかはタイミングの要素が大きい。今こうして社長を務めているのも、悪運か幸運か…、とにかく運です。設立96年の当社でも、社長は私でたった7人目ですから。
でも取締役になれるかどうかは、実力がものを言う。その立場になれば、見える景色や、会う相手が変わる。社員には「若いころから取締役になることを意識してほしい」と発破をかけています。
試験を受けた当時、面接官がとてもいい人で、入社しようと心に決めました。でも、入ってみると「何じゃこりゃ」だったんです。(聞き手・広岡磨璃)
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時代を駆ける経営者たちの半生や哲学を紹介するマイストーリー。6人目は、神姫バスの長尾真社長に語ってもらう。
【神姫バス】1927(昭和2)年、神戸市須磨区で神姫自動車として設立。現在の加古川市内3.2キロで運行を始めた。72年現社名に。不動産や飲食、保育も手がける。2022年9月末現在、グループ営業車両1192両。22年3月期の連結売上高は388億1400万円。グループ従業員約3千人。東証スタンダード上場。
【ながお・まこと】1959年生まれ。小学2年まで姫路市、その後加西市で育つ。淳心学院中・高、早稲田大政治経済学部卒。82年神姫バス。観光や経営企画部門で勤務し、2005年取締役。13年6月現職。兵庫県バス協会会長、姫路商工会議所副会頭。司馬遼太郎を愛読し、バス旅行以外に船旅も楽しむ。