新開地に店を構える(左から)大下和也さん、田中初美さん、岡ルミ子さん、北原淳平さん=洲本市本町4
新開地に店を構える(左から)大下和也さん、田中初美さん、岡ルミ子さん、北原淳平さん=洲本市本町4

 「こっちの新開地もええとこやで」。洲本市本町4のたばこ店店主、神代みばゑさん(85)が朗らかに言う。「こっち」とは神戸ではなく、淡路島で唯一、最大の繁華街、洲本・新開地。洲本市の中心市街地に広がる東西約100メートルのエリアだ。昔ほどの人通りはなくなったが、新たな動きも何やらありそう。まちの姿を見詰めた。(古田真央子)

■昭和、平成…輝き続けた夜

 入り組む路地、きらびやかな看板。新開地には数十年前まで、すれ違う際に肩がぶつかるほど人があふれていた。

 城下町だった洲本市はかつて、敵の侵入を防ぐ堀を境に内外に分かれていた。淡路島の歴史などを研究する「淡路地方史研究会」の会長を30年務めた武田信一さん(89)が説明する。「明治ごろから堀が埋められて行き来しやすくなり町が栄えた」

 祖父と父親が新開地に店を開いていたという喫茶店「珈琲専門店マルウメ」の店主船越武さん(81)は「淡路の各地域から洲本で商売をしようと人が集まった」と教えてくれた。

 始まりは昭和初期。和歌山県から来た材木商の男性が学校の廃材を買い、今の新開地の場所に家を建てていった。建物の1階を改造してキャバレーや飲食店を構え、かいわいは発展した。

 船越さんによると「材木商のおじいちゃんが新しく開いた土地として『新開地』と名付けた」という。

■温泉街-市街シャトルバス、来月から金土日祝運行

 時は流れて現在、新開地にはスナックなど約35軒が並ぶ。まとめ役は、数年前に町内会から名を改めた「新開地商店街」の会長大下和也さん(39)、副会長北原淳平さん(53)ら。防犯カメラを設けるなど、店と客が安全に楽しく過ごせる環境づくりに取り組む。

 一方で、新型コロナウイルス禍やタクシーなどの交通手段が少ないことから、近年客足の減少は深刻だ。

 「昔では考えられない」と思い返すのは、いずれもスナック店主の田中初美さんと岡ルミ子さん(67)。

 工場や企業の従業員らが毎晩、店に来た。地元住民の客も多く「金曜日の夜は由良の漁師が店を占めた。懐かしいなあ」と岡さん。

 1979年に開店した「SNACK(スナック)ボネール」の店主田中清恵さんも、にぎやかだった新開地を知る一人。「従業員の女の子が8人ぐらいいた。それでも手が回らないほど忙しかった。島外からのお客さんとよく友達になった」と思いをはせる。

 転機は、98年の明石海峡大橋開通や企業の撤退。「酒を飲む」という文化が下火になり、一次会で終わる会も増えた。

 そんな中、洲本の夜を楽しんでもらおうと、今年10月、洲本市街地と温泉街とを結ぶシャトルバスの実証運行が始まる。金、土、日曜と祝日に走り、運賃は無料。事業主体の洲本市は「泊食分離のニーズが高まる中、市街地での飲食を楽しんでもらえれば」と話す。

 これを受け、同商店街はバスの利用者向けに、新たに500円の割引券を配布する予定。

 北原さんは「温泉街から10分の1でも市街地に流れてくれれば」と期待。大下さんは「にぎやかになれば地元の人も戻ってくるかも」と思いを込める。

 情緒が残る「こっちの新開地」。自分好みの店と出会うのにちょうど良い規模かもしれない。ボネールの田中さんは言う。「ここは思い出いっぱいの場所。楽しんでくれたら幸せ」