2016
2016年の「読者の報道写真コンテスト」年間賞が決まりました。
受賞者には正賞のほか、最優秀、優秀、奨励の各賞には神戸新聞社から、
努力賞にはニコンイメージングジャパンから、副賞の写真機材が贈られます。
五藤勝之
9月二席
3年前、本格的に写真を始めたときから、被写体は「動くもの」にこだわってきました。カワセミの撮影で近所の池へ通い続けていましたが、よく観察すると、野鳥に限らず多くの生き物たちの営みがあることに気づきました。注目したのが、オスとメスとが絡むトンボの産卵時にカエルが補食する瞬間でした。カエルは獲物を狙う前の動きが読めず苦労しました。受賞作はトンボの産卵シーンが分かる上、オスを捕食するカエルの跳躍は迫力十分です。あまりの早さに撮影時は目では確認できませんでしたが、カメラは捉えていました。写真の素晴らしさを再認識しました。今後も、肉眼では追えない生き物の一瞬のドラマをカメラで切り取っていきたいです。
豊国俊一
1月一席
かねてから柿と雪とを絡めて撮りたいと思っていました。写真歴約30年で、これほど見事にはまった1枚は初めてです。受賞作の柿の木は自宅前の樹齢100年の立派なもの。昨冬は、寒さが増す中でも秋になった実の多くを枝につけたままでした。例年なら鳥がすっかり食べてしまうのですが、なぜかあまり飛来しなかったんです。朝に雪が舞った日、早速、レンズを向けていると児童らの声が。うまい具合に皆が鮮やかな傘を差していて、夢中でシャッターを切りました。幾つもの幸運が重なった結果。「写真の神様」に感謝です。
山内美代子
4月一席
日暈(ひがさ)に気づき、家から車で急いで県立明石公園に向かいました。桜の配置、露出、ストロボ光の調整が難しく、カメラの設定を変えて何枚も撮影しました。何とかうまく撮影できた1枚です。主人の撮影に〝三脚持ち〟として付き添ううち、私も撮ろうと始めたのが5年前。明石市や淡路島など自宅近辺の身近な風景や花にレンズを向けています。できるだけ見たことがない写真を撮りたいと思っています。以前に日暈がうまく撮れなかった経験を生かし、いつか桜と一緒にとイメージしていたことが今回の撮影に生きたと思います。
山内勝
8月二席
神戸の花火大会らしい雰囲気を意識しました。多重露光で花火のボリューム感、露光間ズームで奥行きと鮮やかさを出しました。神戸の象徴「ポートタワー」が収まる構図にも気を配りました。日々の新聞紙面に載る写真を参考に、各地に出かけます。思い通りに撮れなければ翌年にも挑戦します。その場に行けば自分なりのイメージが膨らむので、やはり足を運ぶことが大切だと思います。努力賞の妻と合わせ、思いもよらぬ年間賞を夫婦でいただけると知り、恐縮しています。妻には「今後もお互いにがんばろう」と伝えるつもりです。
時代映す「今」の記録
人気スマホゲームの社会現象をはじめ、事件・事故、自然のスケッチ、農業、祭りと、2016年は総数4751点の応募がありました。人々の営みが多彩に切り取られた写真を振り返りながら、今年も「報道写真」について考えました。
ここ数年の年間賞は、事件や事故など「発生もの」が多くを占めてきましたが、今回はそんな作品がありません。「報道写真」とは時代を切り取ることだと言われますが、その値打ちは後世が決めること。必ずしも「生々しいもの」だけを指すわけではありません。ただ「今」を撮らなければ、時が経っても報道写真にはならないでしょう。
キーワードがあるとすれば「臨場感」でしょうか。何かが起こった、あるいは気になった、そんな事象に向き合った撮影者の臨場感が伝えられているかどうか。そんな1枚が、やがて「その時」を雄弁に語り出すのだと思います。
そして何よりも、写真は現場にいなければ撮れませんが、今回の年間賞受賞者の平均年齢は70歳余り。その飽くなき好奇心と探求心、写欲に動かされた行動力には、敬意を表さずにいられません。
年間賞審査では、若い世代の作品にも注目が集まりました。じっくり時間をかけて写真を撮れる年配層に対し、デジタル世代がスマートフォンやコンパクトカメラでみせる瞬発力。機材の進化がもたらす写真環境の変化も含めて、2017年の「今」を楽しみにしています。
そして、ニュースを撮ったら、すぐ映像写真部にお寄せ下さい。報道写真の基本は速報です。
(映像写真部長 冨居雅人)
▼撮影技術の高さに軍配
年間賞の審査は1月23~24日に行った。対象は各月例コンテストの一、二席24点。編集局長や各部長ら15人が、1位から順に4点、3点、2点、1点を配して4作品を選び、初回投票で受賞作が決まった。
最優秀賞は、産卵中のトンボを捕食するカエルを狙い澄まして撮った「捕らえた瞬間」。カエルの跳躍と、驚いたようなトンボの対比が、自然界のたくましき営みを垣間見せる。撮影技術も高く、4人が1位票を投じ、最多得票で抜け出した。
優秀賞の「寒波襲来」は、山間の雪の登校風景。モノトーンの背景に柿の実や傘の色を写し込み、地域の生活の息吹を表現した。1位票2人など広く上位票を獲得した。
努力賞「お花見は日傘をさして」は、被写体と撮影手法、使用レンズが合致した好例。構図も画題も良い。2人の1位票を得て上位に迫った。奨励賞「真夏の夜の饗宴」は、都会の花火大会らしい作品。露光間ズーミングで地上に変化をつけ奏功した。次点「狙う」は唯一のモノクロ作品で、素朴な構図に緊張感が漂う印象的な作品だが、あと一歩届かなかった。