プログラム#1 須磨アルプス・馬の背

メイキングノート

馬の背

最強の晴れ女

 4月12日の撮影は、これ以上ない快晴に恵まれました。10日前にチェックし始めた天気予報は当初、降水確率40%でしたが、2日前にはついに午前中0%に、バイオリンに大敵の湿度も80%超からぐんぐん下がり66%、さらに56%になりました。
 今回、神戸市への撮影の許可申請でお世話になった「神戸フィルムオフィス」代表の松下麻理さんに「予定通りやります」と電話すると「おっ、晴れ女(笑)」。そうなのです。筆者がというよりは、出演の幸田聡子さんとこれまでに六甲山散策に出かけた際は、記憶に残るほどのさわやかな好天で「今回も絶対大丈夫」と言い合っていました。その通り、一番気がかりだった天気は最後まで味方してくれました。

馬の背から神戸の海を望む

 心配といえば、山上ではトイレ問題も頭をよぎります。幸田さんからは前日「そういえばトイレあった? 撮影だと長時間かかると思うけど」とメールが。馬の背に、トイレはありません。どうしても我慢できない場合はちょっとそこまで“お花摘み”に行くしかないのですが、全員にせめてもの対策にメールを。「お茶は利尿作用があるだけで熱中症対策にもなりませんので、できれば控えてください。持っていかれるならスポーツドリンクを水で半分に割ったものを。そのままだと塩分が濃いので」と。筆者が昔、登山の達人から教わった知識をそのまま送りました。その甲斐あってか、山登りから撮影終了まで約6時間、誰もお花摘みに行かず済みました。

バイオリン担いで40分

馬の背

 馬の背までの登山道は最短コースで。出演者のご家族も手伝いに駆けつけてくださり、総勢11人、午前7時に神戸市営地下鉄「妙法寺」駅に集合し、住宅街を約15分間歩いた先の横尾南公園そばの登山口から約40分、隊列になって登りました。
 マウロ・イウラートさんは故郷イタリアの山で鍛えた健脚で自らバイオリンを担ぎ、幸田さんの楽器は、彼女の山仲間で忍者のように身のこなしがしなやかな「ユウキくん」が慎重に運んでくれました。バイオリンは、いくらお金を出しても代わりなどない“文化財”級なので、万一何かあってはならない。でも不思議と彼なら「絶対ぶつけない、転ばない」と思える安心感がありました。道中、ツツジは終わり間近でしたが、足元に咲くイチゴの真っ白な花が愛らしく癒やされました。

登山の様子

 カメラマン、ドローンパイロットの撮影用機材も手分けして担ぎます。筆者もできるだけ協力できるよう、実は前日の日没前、事前に持って上がれる荷物を持って登り、撮影現場近くの岩陰にこっそり隠してきました。レフ板やらドローンヘリポートやら、自撮り用のジンバルやら…。緑の葉っぱ状の飾りが付いたカモフラージュネットで覆い、重しに石を置いて。もはや気分は、くノ一です。イウラートさんには「獣に荒らさてれるんじゃないか」と心配されましたが、ノープロブレム。無事に有りました。

カモフラージュネットで荷物を隠す

ドローン、青空を舞う

ドローン、青空を舞う

 この日はドローンが最も影響を受けやすい風の環境も味方してくれました。地上より上空は風が強い可能性が大きく、国交省の標準マニュアルを基準にした場合、風速5m/sまでの状況が飛行に望ましいとなっていますが、この日は本当に穏やかな日で、ドローンパイロットの藤城さんも「きょうはほとんど風がなく飛ばしやすかった」と。いつも青空を飛んでいるドローンを見るとすがすがしい気持ちになりますが、まさにドローン日和。ヘリポートから最初に空へ上昇したときには、思わず皆から歓声が上がりました。

 しかしドローン撮影の難点は、広範囲が写ることです。演奏者以外の人が写り込むと映像としてあまり美しくないので、通りがかったハイカーの方々に1曲の2分余り、映らない場所で待ってもらい、バイオリンケースなどの荷物にも緑の葉っぱ状のカモフラージュネットをかぶせ、スタッフも脇の低木に隠れたり、岩陰の死角に潜んだり…。よく考えたら現場はとても滑稽でした。

 月曜の朝だったのでハイカーの方はそれほど多くなかったですが、皆さん「あれがドローンいうの。初めて見たわ」「エエよ、バイオリン聴いてるから。なかなかこんなん出会えへん」「これ、サンテレビで流れんの?ネット?テレビで見られるようにしてよ」など、怒るどころか温かく待ってくださり、本当にありがとうございました。

最後に

 収音については、映像とともに、より美しい音楽を楽しんでいただくため、今回は神戸新聞松方ホールで録音したものを使用しています。しかし、山上での演奏の響きは想像以上に素晴らしく、第2作目以降、現場での収音にも挑戦していきたいと思います。

 プロジェクトには公益財団法人「神戸文化支援基金」様から25万円を助成していただきました。ご支援によってスタートできたことに感謝し、今後も継続し、社会的に意味のあるものにしてきたいと思います。