手作りの誇り 失わず
思い出刻んだ時計を守る

重栖(おもす)貞夫さん (75)
時計技能士/西宮市

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手作りの誇り 失わず
思い出刻んだ時計を守る

重栖(おもす)貞夫さん (75)
時計技能士/西宮市

 地震の日は明け方近くまで預かっていた腕時計の修理をしとってな。ちょうど寝付きかけたころ、ユッサユッサ来た。家族は2階にいて無事やったけど、1階はめちゃくちゃ。時計を並べたショーケースの破片やら、屋根の土やらが腰の高さまであった。夢であってくれと思ったで。救いは修理中の時計が無事やったことぐらい。しばらくは片付けで必死やった。
 そんな中でも修理や電池交換の依頼は普通に来よんねん。何でこんな時にと正直思ったで。けど頼まれたら直すんが仕事。中学の時からやってるからね。がれきの中から工具探して、奥の台所で暗いなぁって文句言いながら作業してたわ。
 普段はお客さんのことを聞いたりせんけど、女の人が男物の時計を持ってきたことがあってな。不思議に思って聞いたら、地震で亡くなった息子さんのやった。時計は持ち主と一緒に時を刻むもんやろ。だから思い出そのものなんやって、あらためて感じたわ。
 今でもガレージには、地震の時に壊れた商品が置いてあって、製造中止になった部品はそこから用立てる。商品にはならなくても、部品はまだ生きとる。わしの命も震災で拾ったもんやし、生き残った時計も大事に使っていくよ。(中西幸大)
=おわり=


2014年11月22日掲載
写真撮影場所:

西宮市今津曙町、保証堂時計店