西堀超也(まさや)さん ((69))
金属精密加工業/神戸市長田区
西堀超也(まさや)さん ((69))
金属精密加工業/神戸市長田区
朝も晩も、図面をにらんで千分の1ミリ単位で磨いて、削って、穴を開ける生活で、定年もなしや。でもあの日だけは「こらあかん」って思った。
揺れの間、横で寝ていた嫁さんに、布団ごと覆いかぶさった。聞こえたのはごう音と近所の悲鳴。倒れてきた家具と床の隙間で、2人の娘も命拾いした。
外に出たら強いガス臭やった。近くの義母宅から助けを求める声が聞こえて、壊れた家から家族皆で必死になって引っ張り出した。
そのあと、作業場に駆けつけたけど、すでに火の海。一切救えなんだ。持ちこたえた自宅も間もなく焼け落ちて。つらくて情けなくて、何にも考えられなんだ。
救ってくれたんは職人仲間や友人たち。ひそかに仮設工場に申し込んでくれた。応募してくれた友人は落選したのに、わしは当選。研削盤もメーカーが融通してくれた。住む家は知人が面倒をみてくれて。仮設工場で再出発して5年後、作業場を再建できた。
金属加工は中学卒業して、東大阪に修業に出てから半世紀以上になる。この腕を頼りにしてくれる声がある限り責任持って仕上げるよ。お客さんの納得する顔が、生きがいやから。(宮路博志)