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(下)自助努力 災害の記憶 備え後押し
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 海辺の高台に新しい住宅が整然と並ぶ。和歌山県田辺市新庄町の内之浦地区。東海・東南海・南海地震では高さ五-六メートルの津波が襲うとされるが、住宅はそれより高い所にある。住民たちは以前、海抜一メートルに満たない干潟周辺で暮らしていた。津波の危険を避けるため一九九六年、二十一戸が地区ぐるみで集団移転したのだ。

 災害危険区域からの住宅移転は、被害を防ぐ抜本的な解決策になる。しかし、住民にとって住み慣れた土地を離れることは大きな負担だ。全国的にも、最近では新潟県中越地震など災害後の復興事業として実現したにすぎない。

 内之浦地区の元町内会長、森山唯雄さん(89)は一九四六年、前回の南海地震を体験。自宅は屋根まで漬かった。近くの国民学校は流され、荷物を取りに家に帰った女性が亡くなった。

 その場所に八〇年代、リゾート計画が持ち上がる。移転補償で住民が費用負担なく高台へ移れるチャンスだったが、バブル崩壊で計画は破たん。森山さんは当時の市長に直談判し、九三年、同様に移転補償を伴う干潟親水公園の整備事業を市から引き出した。

 それでも、多くの人は移転を渋った。森山さんは「私以外にも南海地震の体験者はいる。が、記憶は風化する。土地への愛着と日常の便利さには勝てない」と振り返る。

 「命を守るんや」。粘り強く説得を続けた。移転完了の前年、阪神・淡路大震災が起き、列島は地震活動期に入ったとされる。次の南海地震が現実味を帯びて迫る。

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 住宅の移転や耐震化ほどの負担をしなくても、個人でできる備えはある。兵庫県が震災を教訓に創設した住宅再建共済制度は、年額五千円の掛け金で、被災住宅の再建に最高六百万円を給付。だが、加入率は昨年十一月末時点で5・6%だ。

 その中で、たつの市の加入率20%超は突出している。同市連合自治会の丸山勇会長(76)は「地域ぐるみの呼びかけで、住民が自分自身の問題としてとらえた」という。

 南海地震に加え、播磨の山崎断層による地震も想定される同市御津町の西釜屋地区。加入率は40%近い。自治会長の都倉良太さん(59)を突き動かしたのは、大震災直後、ボランティアとして神戸市長田区を訪れ、避難所で見た光景だった。多くのお年寄りが床に寝かされ、衰弱していった。

 「地震後も関連死や孤独死が相次いだ。地区の住民を同じ目に遭わせたくない。共済からの六百万円で自宅跡にプレハブでも建てれば、早く元の生活が取り戻せる」。自治会費から、初年度掛け金のうち一戸当たり千円の負担を決め、役員らとともに各戸を回る。

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 地域が、薄れてしまいがちな災害への危機感を個々人に喚起する。地域が「自助」を後押しする。が、都市部では自治会さえない所もある。

 「とはいえ、子どものサッカー教室の親同士でも、趣味の会でもいい。都会の住民も、地域とのかかわりは皆無でないはず」。京大防災研究所の矢守克也助教授(防災心理学)は指摘し、「まずそこで災害を話題にする。自治体はこうしたグループへ、防災情報を発信すべき」と訴える。

 十二年前の震災は、地域社会のあり方をも問うている。(石崎勝伸、森 信弘)

=おわり=

2007/1/15
 

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