自分は依存症ではないか-。ネットやゲームをしているうち、いつの間にか時間を忘れている。片時もスマートフォンを手放せない。現代人の多くが同じような悩みを抱えている。神戸大病院(神戸市中央区)で、ネット・ゲームとギャンブル依存の専門外来を担当する精神科専門医、曽良一郎教授に聞いた。
■ガチャでドーパミン放出
--ゲームをやめたいのにやめられない。脳内でどんなことが起きている?
曽良 依存症とは楽しいことや快感が何度も繰り返され、脳内の報酬系の神経回路が変化してしまう状態です。
薬物を使用したとき、脳内で興奮物質のドーパミンが一気に増えます。ゲームでも非常に楽しいと思った時に似たようなことが起こります。月から年の単位で長期間、そういう快感刺激が繰り返されることで依存が作られていくのです。
--「ガチャ」で当たりが出るとドーパミンが分泌される?
曽良 ガチャゲームの多くは当たれば強いアイテムなどを得られるようになっています。そうすると、ゲームを有利に進めていくことができる。課金をして悪い結果が出たとしても、もう一度やってしまう。これは前に当たった時の快感を覚えているからです。当たるか、当たらないかは分からない。ガチャはある意味ギャンブルに近いものです。
※「ギャンブル等依存症」などを予防するために-文部科学省資料から
■当たらない方がワクワクする?
曽良 ギャンブルならオッズが高いほど、それが得られた時の快感が大きくなります。つまり期待値が大きければ大きいほど快感も大きくなるのです。ガチャもこれと同じで、当たる確率が低いほど快感が得られます。
脳がどういうときに快感(=ドーパミン)を出すのか調べると面白いことが分かっています。例えば、動物が何かの報酬として食べ物を得られた場合、ドーパミンの分泌量は、食べ物を得られたときよりも、得られる直前の方が多かったのです。人もそう。実際に楽しいことが得られた瞬間よりも、その前の期待をしているときがすごくワクワクする。ゲームもそれに近いメカニズムがあるのではないかと考えられています。
--つまり「ガチャ」は回す前が一番楽しい
曽良 もちろんお目当てのレアアイテムが得られたときもドーパミンが出ますが、期待したときはそれ以上のドーパミンが出ているということです。
※「ギャンブル等依存症」などを予防するために-文部科学省資料から
■無課金でも依存症に
--欧米では「ガチャ」が射幸心をあおるとして規制をかけている国もある
曽良 ガチャというのは、ゲームの中で楽しい部分の一部です。バトルロイヤルやシューティング系のゲームでは、課金することと依存性はある程度、相関性があるとみられています。しかし、依存をしている人たちがみな課金をしているかというと、そうではない。依存になっている人でも課金していない人もいます。
曽良 ソーシャルゲームについて業界に聞くと、月に結構な額を課金している人は実は少ないそうです。大半が無料で遊んでいる。ただ広告収入もあってちゃんと収益が上がる仕組みになっている。ガチャで収入を得ているゲームは非常に少ない、と聞きました。
■毎日ログインで依存が形成
--ゲームはなぜ依存しやすいのでしょう
曽良 かつてのゲーム機の時代というのは、一つのパッケージゲームを買うと、それを何十時間か楽しんで最後まで遊んだら区切りがつきました。
今のスマホのオンラインゲームはいつでもどこでもできる。そして繰り返しで、終わりがない。依存は繰り返し快感刺激を与えることで脳の回路が変化していきます。刺激の強弱よりも反復性が重要なのです。
曽良 お酒を一時的に浴びるように飲んでも依存にならないのと同じように、ちびちびと毎晩やることの方が、リスクが高い。
ソーシャルゲームも毎日ログインするだけでも楽しいことを想像させます。その中で課金もすると、さらにはまってしまうというわけです。ユーチューブやTikTokにはまりやすいのも同じ理由からです。短い動画というのがみそで、これを繰り返し見ることで、快感が刺激され続ける。
※「ギャンブル等依存症」などを予防するために-文部科学省資料から
■シューティング、MMORPGは危険?
--依存しやすいゲームとは
曽良 特に依存性が高いといわれているのはシューティング系のゲームです。ガチャも数多く使われて、課金者も多い。
もう一つがMMORPG。ある程度ストーリーがあるロールプレイングゲームですが、多人数がネットを介して同時に参加するというものです。そこに行けば現実の世界と似たような物語がいつも進行している。そうすると、エンドレスに使用してしまう。非常に嗜癖性が強いといわれています。
■最大課金は1000万円!?
--これまでの患者で最高課金額は?
曽良 多くが数十万円ぐらい使っています。最高金額は1000万円近い。スマホゲームの「ガチャ」で使ったそうです。数百万円というケースもかなりあります。1年ほどで、気がつくとそれだけ使っていた、と本人たちは言っています。
--なぜそれほどの大金を?
曽良 数百万円となると、やはりガチャです。「ガチャ」を回すとゲームが有利になる。強いキャラクターが得られる。ただ、かなりの金額を使うと強くなりすぎてしまう。そうすると、ちょっと面白くなくなるのだそうです。で、今度は次の分野のゲームに行く。そういうことを繰り返す。一つのゲームで500万~600万使って自己破産した患者もいましたが…。
一方、「フォートナイト」などバトルロイヤル系のゲームは必ずしも課金をすることでキャラクターが強くなるわけではありません。ガチャで当たるのは装備や見た目など直接ゲームの進行には関わらないものですが、あくまで楽しむために課金したという人が多かったです。
※「ギャンブル等依存症」などを予防するために-文部科学省資料から
■依存症の線引きは?
--現代社会だとネットやゲームを触らない日はない。自分は依存症予備軍と思っている人も多い
曽良 WHO(世界保健機関)の診断基準でいうと、
①ネットゲームの使用をコントロールできない
②他の楽しみよりも、ネットゲームが一番である
③社会生活に支障をきたしている
この三つが12カ月以上続いている状態なら依存症という診断名が付きます。
■1週間20時間で依存リスクあり
--何に注意して利用したらいい?
曽良 時間数が判断のかなりの指標になります。一般的な社会人や学生なら、平日の自由時間はだいたい4~5時間ぐらい。それを目いっぱい使ってしまう。毎日続けると、1週間で30時間程度になる。
診断レベルにまでいかずとも、依存というリスクだけをみると、週に20時間がラインと言われています。健全な人のゲーム時間は1日1時間ぐらい。今はスマホですぐに情報を検索できるので、使用時間という境界があまりない。はっきり確認するにはインターネット依存スクリーングテストがあります。不安な方は一度試してみてはいかがでしょう。
▽そら・いちろう 1957年徳島市生まれ。岡山大大学院医学研究科修了。東北大大学院医学研究科教授、厚生労働省依存性薬物検討会委員などを経て、2013年4月から神戸大大学院医学研究科精神医学分野教授。