
プロローグ~1号店、だれがやってももうかる立地では意味がない
2000年3月、兵庫県三木市の郊外で、一風変わった食品スーパーマーケットが目立たずに産声を上げた。大量、安値販売と特徴的な自社商品で全国に店舗網を広げた「業務スーパー」である。創業者は当時45歳の沼田昭二(66)。その時点ですでに、兵庫県加古川市などで約20年間、地場スーパーを経営した経験があった。従来のビジネスの限界を感じ、異例のフランチャイズ(FC)方式を思い立ったのだった。(敬称略、記事・三島大一郎、写真・辰巳直之)
三木の1号店は、FCのモデル店舗との位置付けだった。鉄工所の跡地。あえて、周囲に民家がない場所を選んだ。
「こんな所で、これだけ客が入るのか」と、加盟店のオーナーになる人たちに思ってもらおうとした。だれがやってももうかるような立地では意味がない。かといって、本当に商売が成り立たなければ元も子もない。目的があれば自動車で来られ、認知されれば集客につながりそうかどうか徹底調査し、勝負した。

屋号の意味は、「業者が使う食品を仕入価格で販売する」だ。業者専門ではないため、看板に「一般のお客様大歓迎」の文字を加えた。3年で100店舗、9年で500店舗に到達。20年12月末現在、896店舗を数え、加盟希望が途絶えないという。
沼田は、12年にFC本部の神戸物産(兵庫県稲美町、東証1部上場)の社長を退くまで、トップダウンで引っ張り続けた。バブル崩壊後の低成長時代を駆け抜け、「コンビニやネット販売の伸長、少子高齢化は2000年にはだれでも分かっていたこと。その時流を捉えて10年、20年先に勝てるよう、よそにないものを作り続けた」と振り返る。20代での起業から、業務スーパーに続く新事業まで聞いた。
電子版「神戸新聞NEXT(ネクスト)」で、連載「業務スーパーを創った男」を始めます。本編は全6回で、毎週火曜に更新予定。更新時は神戸新聞公式 twitter(https://twitter.com/kobeshinbun)でお知らせします。連載はネクスト会員向けで、閲読するには会員登録(有料)が必要です。
兵庫発「業務スーパー」拡大 常識破りの店舗運営はこちら
業務スーパー躍進のワケ 独創の商品製造、調達はこちら
神戸物産・沼田博和社長インタビュー動画はこちら
- 高校卒業後、下積み時代を経て足を踏み入れた小売業界。そこでは、圧倒的な購買力を持つ大手スーパーダイエーが、「王者」として君臨していた。後発組である自分が、同じ土俵でどう戦うか。「技術で勝負しようと思った」と、沼田氏は語る。2021.02.02店舗過剰の日本で、販売に特化した経営手法に限界を感じた沼田氏。米流通大手ウォルマートとのビジネスを通じて気付かされる。「大事なのは、売り方が上手になることではなく、売る商品を知ることだ」と。日本人のまじめさにも話が及ぶ。2021.02.0920年前、沼田氏が考え出した「業務スーパー」は、物流費が高騰しても、核家族化が進んでも伸びる店だった。出店形態は、加盟店と利益を分け合うことになるフランチャイズ方式を選んだ。そこには、他社にはない商品開発に集中したいとの狙いがあったという。2021.02.16小規模スーパーは、大手よりも商品を高く仕入れないと仕方がない。安く売るために徹底したのが、ロス・無駄・非効率を無くすことだった。とはいえ、安いだけでは消費者は付いてこない。沼田氏は独自の品質論を展開する。2021.02.232008年の中国製ギョーザ中毒事件は、冷凍食品を多く扱う業務スーパーをはじめ小売り各社を窮地に追い込んだ。だが、沼田氏は「これで勝てると思った」という。見据えていたのは足元ではなく、5年後の状況だった。2021.03.02エネルギーと食料の自給率上昇-。日本の将来のリスクを見過ごせないと、沼田氏は新たな企業を立ち上げた。挑戦するのは地熱発電。今の時代に人々が何を求め、それにどう対応するか。「当たり前のことを実行する」。考え方は業務スーパーと同じ、と強調する。2021.03.09
兵庫の経済ニュース
地域発
注目の人