ひょうご経済プラスTOP 経済 業務スーパー躍進のワケ 独創の商品製造、調達 2025年に1000店舗超えへ

経済

業務スーパー躍進のワケ 独創の商品製造、調達

2021.01.26
  • 印刷

2025年に1000店舗超えへ

 新型コロナウイルス禍でも業績を伸ばす兵庫発の小売チェーン「業務スーパー」。無駄を徹底排除する売り方に加え、フランチャイズ(FC)本部の神戸物産(兵庫県稲美町)による独創的な商品の開発、製造を強みにしている。同社の沼田博和社長(40)は「実はものづくりに特化した会社。他社にはないオリジナルなものを作り上げることを常に意識している」と話す。(記事・三島大一郎、写真と動画・辰巳直之)

牛乳工場で牛乳を作らず

 紙の牛乳パックの中から、1キロのプリンやゼリーの塊が滑り出る。業務スーパーのプライベートブランド(PB)商品「牛乳パックデザート」だ。見た目のインパクトの大きさとともに、さまざまなアレンジの仕方が会員制交流サイト(SNS)上などで話題になった。

 2013年に神戸物産グループに入った愛知県の豊田乳業が製造している。元々、売り上げの9割以上が牛乳という地元の牛乳メーカーだった。神戸物産は買収時から、牛乳は作らないと決めていた。商圏が中部エリアに限られるからで、設備を生かし、牛乳製造の工程に合う別の商品を考えた。初期に完成した一つが1キロの水ようかん。価格は248円。安さに加え、温めればお汁粉にもできるなど手軽さが受け、大ヒット商品となった。

経営難の食品工場からヒット商品

 神戸物産は08年から、食品工場のM&A(企業の合併・買収)を進めている。豊田乳業をはじめ、M&Aした工場の多くは経営に行き詰まっていた。「企業としてはうまくいかなかったが、知識と経験を蓄えた食品製造のプロがいる。それを生かす」と、沼田社長は話す。新規に従業員を教育する時間がかからず、設備を再利用することで多額の投資をせずに新たな商品を生み出す。

 グループ会社のオースターフーズは、姫路市内の3つの食品工場を買収、合併させてできた。一つは豆腐製造だった。今も豆腐を作り続けながら、真横で冷凍チーズケーキを作り、豆腐とほぼ同じ容器に詰めている。やはり人気商品に育った。

こだわる品質は賞味期限

 おいしさと並んで重視する品質は、賞味期限の長さだ。保存料を極力使わない製法の開発に力を入れ、牛乳パックデザートは未開封で約2~3カ月、うどんやそばなどの袋麺は約2週間持つ。「賞味期限が伸びるほど廃棄ロスを減らせる」(沼田社長)と、ここにも無駄を排除する考え方がある。同じ狙いで、冷凍食品は欠かせない。長持ちさせやすく、「味が劣化しにくい」という。ハンバーグやチキンカツ、カット野菜など多くの商品を自社工場で製造したり、中国などから輸入したりしている。

商社機能、40カ国から仕入れ

 海外から独自ルートで調達する食品もPBとして扱う。世界約40カ国から仕入れ、全PB商品約1400種類のうち約1200種類を占める。11年からは、「世界の本物を直輸入」のコンセプトで開拓。約15人のバイヤーが、海外の展示会を訪れるなどして商品を買い付ける。現在、世界各国に350以上の協力工場を持つ。イタリアのチーズやパスタ、ベルギーのワッフル、ポルトガルのエッグタルトなどがヒット商品となり、若い女性客も獲得した。

外国人向け希少品で差別化

 一方、あまり売れなくても扱い続けている商品がある。アジア料理の魚醬(ぎょしょう)など、特定の国の料理の決め手になるような調味料は、調理する人らが困らないよう輸入を続けている。コスト削減の観点からすれば矛盾するようだが、他社の扱いが少ない商品。日本で働く外国人は年々増えており、商品の差別化で大きな役割を果たしている。

 一例は「ハルヴァ」。トルコから輸入している砂糖とゴマが特徴の菓子だが、最初に販売した時には「おいしくない」と言われた。ところが、販売を中止すると再販を求める声が相次いだ。そこで改めて海外の展示会で各メーカーの商品を食べ比べて輸入を再開した。「結局、今もあまり売れてはない」(同社)が、沼田社長は「これを買うために来店する人がやはり相当数いる。販売の可否の判断は売れ筋かどうかだけでもない」と意に介さない。

増える加盟希望、客層拡大が課題に


展望と課題を語る沼田博和社長

 業界の常識や見た目にとらわれない業務スーパーの事業手法は、低成長時代の「常識」となるのだろうか。FC加盟を希望するオーナーは、今も増え続けているという。沼田社長は「25年に1000店舗を目指す」と話す。

 新型コロナウイルス禍では、「巣ごもり需要」の波に乗って売り上げ、入店客数とも増加した。大容量、賞味期限の長い商品がそろっているというイメージが、コロナ禍で新たな顧客の獲得にもつながった。「いい物を安く販売するための商品づくり、店舗運営が評価された」とし、変えずに追求する。

 今後の課題について、「PB商品の強化や接客などサービス水準の向上によって、各店舗の稼ぐ力をさらに高める必要がある」と説明する。店舗数が増えれば、加盟店同士の競合も起こり得る。また、業務スーパーの認知度は高まったものの、「知っているけど利用したことがない」とする人が半数を占めたアンケート結果も気になるという。高齢者ら買い物弱者支援も念頭にインターネット販売の強化を検討し、「商品を国内の隅々にまで届けられるようにしたい」。さらに、中食需要の高まりを受けて業務スーパー内にPB商品を使った総菜店を導入し、客層の拡大を図る。10年、20年先、業務スーパーはどう変化し、新たな商品が生まれるのか。目が離せない。

兵庫発「業務スーパー」拡大 常識破りの店舗運営はこちら

ウェブ連載「業務スーパーを創った男 沼田昭二氏独占インタビュー」はこちら

神戸物産・沼田博和社長インタビュー動画はこちら

 「業務スーパー」と神戸物産 1985年設立。2001年、神戸物産に社名変更。00年3月、兵庫県三木市に「業務スーパー」1号店。フランチャイズ方式で、20年末時点で宮崎県を除く全国46都道府県に計896店舗。神戸物産が国内メーカーから仕入れた商品と、国内23カ所の自社工場や海外の協力工場で製造したプライベートブランド(PB)商品を供給。東証1部上場。20年10月期連結決算で売上高が初めて3千億円を超え、利益とともに過去最高を更新。資本金6400万円。従業員数1372人(20年10月末現在、グループ会社含む)。