兵庫県尼崎市出身の元高校球児が、２０２２年度の車いすソフトボール日本代表に選ばれた。大学２年の２０年夏、バイク事故で脊髄を損傷した香川大成選手（２１）＝大阪府松原市。カヌーにも取り組み、パラリンピック出場を目標に掲げるが、かなえたいもう一つの夢がある。「『障害者＝かわいそう』を減らしたい」－。（有島弘記）

　香川選手は小学３年で野球を始め、中学時代は強豪の宝塚ボーイズに所属した。高校は大阪の常翔学園に進学。主将で一塁手だった３年夏の北大阪大会は、根尾昂選手（現プロ野球中日）らを擁し、後に全国制覇する大阪桐蔭に敗れ、ベスト１６だった。

　現在も在学する大阪大谷大（大阪府富田林市）では準硬式野球部に入ったが、新型コロナウイルスの感染拡大で活動休止に。「今のうちにお金をためよう」と夜勤のアルバイトを始め、帰り道でバイク事故が起きた。

　現場は右カーブ。対向車に気を取られ、進行方向左のガードレールに衝突した。「自分の運転ミス」と香川選手。意識はあったが、両脚が動かない。後続の運転手の１１９番で搬送され、緊急手術を受けた。

　転院し、脊髄の再生医療も受けたが、胸から下のまひは一向に消えない。歩けないことを悟ったが、「悪い気持ちはなかった」と振り返る。

　「先生や看護師さんがいい人たちだったし、早くから『バスケットをやる』と言ってましたね」。持ち前のポジティブ思考が前を向かせた。

　退院後の昨夏、伊丹市の車いすバスケットボールチーム「伊丹スーパーフェニックス」に入り、そこで車いすソフトボールの存在も知った。「すぐに行きます」。大阪府東大阪市が拠点のチームを訪ねると、ボールを握る喜び以上に、目の前の光景に驚いた。

　国内大会は健常者もプレーできるため、一緒に練習していた。障害者とは分厚い壁があると思い込んでいたが「それが全くなくて。みんなが楽しそうだった」と通い始めた。

　日本代表にも選ばれて投手を務めるが、車いすソフトボールは現状、パラリンピックの対象外。祭典への出場を目指し、今年に入ってパラ正式競技のカヌーを始め、車いすバスケットボールも続けている。

　一方で、同じ障害者でも自分とは真逆の存在がいることを知った。

　事故後も変わらずに接してくれる友人の手を借り、学業や遊びも充実させる自身に対し、周囲の視線から疎外感を抱き、自室に閉じこもる人がいた。パラスポーツを通じて障害への理解を広げる団体に参加して学び、「自分のように手助けがあれば、何でもできるのに。引きこもる人たちの代わりに伝えていきたい」と、社会から偏見を取り除くことが夢になった。

　そのためにも、世間が耳を傾けてくれる実績が必要と自覚している。車いすソフトボールでは８月に米シカゴで国際大会「ワールドシリーズ」がある。

　「全部勝ちます」。世界制覇が、その第一歩だ。

【車いすソフトボール】一度に１０人が守備に就く持ち点制で、出場選手の合計を２１点以内にする必要がある。障害が重い順に０～４点の４クラスがあり、日本代表で投手の香川選手は１点。ルール上、山なりのボールを投げるが、投球途中に一度止まるなどフェイントは可能。国内は「日本車椅子ソフトボール協会」が統括し、会長は女子ソフトボールでシドニー大会など五輪３大会出場の高山樹里さん。