
北京冬季五輪が盛り上がりを見せる中、兵庫県小野市出身の陸上オリンピアン、小林祐梨子さん(33)が昨夏の東京五輪をテーマにした講演会で披露したエピソードが聴衆の感動を誘っている。陸上の男子走り幅跳び決勝で脚を痛め、金メダルが懸かった最終試技で跳べなかった優勝候補の選手に対し、主審の日本人男性が見せた「ある対応」の話だ。主審は小野市と同じ北播磨地域の西脇市出身で、今は大阪にいた。知られざる舞台裏を、本人が明かしてくれた。
大阪市天王寺区、清風中学校・高校の陸上部で顧問を務める坂部雄作さん(42)が、その人だ。「小林さんがそんな話を? うれしいですね」と笑顔で語り始めた。
自身もかつて陸上の跳躍選手だった。西脇南中から社高に進み、全国高校総体(インターハイ)の男子三段跳びで7位入賞。天理大を卒業後、衣料品店勤務などを経て大阪府立高校の教員に。摂津高勤務時代は女子走り幅跳びや男子三段跳びでインターハイ王者を育て、昨春に清風に赴任した。
陸上の審判としては、2007年の世界選手権大阪大会や日本選手権などで経験を積み、念願だった東京五輪の審判に選ばれた。男女の走り幅跳び予選・決勝、男子三段跳びの予選・決勝などでいずれも主審を担った。
あの日の話。21年8月2日午前10時すぎ、東京・国立競技場で男子走り幅跳び決勝の幕が開けた。
踏み切り板のすぐ横に、国際審判員の女性と並んで腰掛けた坂部さん。踏み切り板の先に選手の足がはみ出てファウルになれば赤旗を、有効試技なら白旗を掲げる。
世界中のトップアスリートが、身も心もすべてささげて挑む舞台。赤旗を挙げると、「ファウルか!?」と食ってかかってくる選手もいた。
そんな時、坂部さんは敬意を払って膝を地に着き、踏み切り板の先のファウル板を覆う粘土にキズが付いていることを、そっと指し示す。「あなたはファウル板を踏みました」という意味だ。すると選手は納得する。「赤旗は重い決断。オリンピックに懸けた選手の人生に赤旗を挙げるのと同じ。すごいプレッシャーだった」
◇
5回目までの跳躍が終わり、首位は8メートル41を記録したフアンミゲル・エチェバリア(キューバ)。19年世界選手権の銅メダリストでもある実力者がこのまま優勝か、とも思われた。
だが、ドラマは終わらなかった。最終6回目の跳躍で、ミルティアディス・テントグル(ギリシャ)が大ジャンプ。8メートル41だった。
2人が同じ記録で並んだ。となると、2番手記録で争うことになり、テントグルが8メートル15で上回っていた。
実はエチェバリアは既に脚を痛めていた。しかし金メダルが欲しいなら、今から8メートル15を超える跳躍をするしかない。ウエアを脱いで、助走路に立った。
走りだした。と同時に、表情がゆがんだ。数歩進んだところで、リズムを乱す。スピードを緩めて、止まった。踏み切り板を少し越えたところで突っ伏す。拳を地面にたたき付けた。
目の前でじっと見ていた坂部さん。横に座る国際審判員の女性に伝えた。「I think red(僕は赤だと思う)」
女性からの返事はない。何も言えなかったようだった。自身も走り幅跳びで五輪出場を夢みていた坂部さんは、すぐに赤旗を挙げることができなかった。旗を持つ手が小刻みに震えた。
「でも自分が判断し、彼に早くファウルを告げないと」。ゆっくりと赤旗を持ち上げ、自らの肩の高さで止めた。「あまり上まで挙げすぎると、必要以上に誇示する感じがして」。坂部さんは顔を下に向け、無念の思いを共有した。
◇
翌日の国立競技場。坂部さんは、陸上の大会運営責任者の男性に声を掛けられた。「きのうの走り幅跳びの審判は君かい? 素晴らしい旗の振り方だったよ」
審判は声を出せない。だから、時には旗の振り方で選手にメッセージを送る。坂部さんの場合、選手が会心の踏み切りを見せたときには勢いよく白旗を振り上げ、残念なファウルのときはゆっくり赤旗を挙げる。
ファウル板を覆う粘土を見て、ファウルかどうかを確認するときも「クールに探して、瞬時に判断する」。板の上に視線をやり、すーっと1回か2回、目を流すのみ。選手が「あら探しをされている」と不快に思わないよう心掛ける。
坂部さんが審判の参考にするのが、すし職人だ。「職人さんは『やっている感』を一切見せない。洗練された、迷いのない動き。素材が主役なんですよね。僕らにとっては選手が主役。いかに黒子に徹するか」。選手が大会を終え「そういえばきょうの試合、跳びやすかったな」と感じてくれるのが理想だという。
五輪期間中、坂部さんの体重は6キロ落ちた。「心労はマックスだった」と振り返るほどの重責。その仕事ぶりには、プロフェッショナルとしての誇りと選手への愛情が詰まっていた。
(藤村有希子)

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