■シャカシャカの男
将太君事件に関する3冊の分厚いファイルが手元にある。
数百ページに及ぶ現場の聞き込みメモ、捜査幹部への夜討ち朝駆けメモ、新聞各紙のスクラップ…。神戸新聞の取材班がまとめたものだ。
読み返す。10年前の事件が生々しく浮かび上がる。
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あの夜。住宅街の自動販売機そばの階段で、堤将太君と中学3年の女子生徒が話し込んでいた。
ふと気づくと、10メートルほど離れた歩道のポールに、知らない男が腰かけている。
「気持ち悪いね」。2人はささやき合う。
気にはなったが、話に熱中していたのだろう。いつの間にか、男は将太君のそばに立っていた。
「逃げろ!」。将太君が叫ぶ。男はナイフを振り下ろす。どんなもみあいがあったのかは分からない。
将太君は北へ約70メートル離れたバス道の交差点で倒れた。通りかかった車の運転手が最初の110番をしている。
女子生徒は水路沿いの道を逃げ、将太君のそばに戻ると泣き叫んだ。その様子を、現場に駆けつけた父の敏さん(61)が見ている。
傷は数カ所。首の右側から8センチの深さで刺さったナイフは静脈を絶ち、肺に達していた。この傷が致命傷になった。
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取材メモに、印象に残る捜査幹部の言葉がある。
「最初から殺意があったのなら、あんなナイフを使うだろうか」
事件発生の6日後、刺殺現場から約100メートル離れた民家の溝で凶器のナイフが発見された。その後、同型のナイフは地区内のスーパーを含む関西一円で60本販売されていたことが判明した。
その新品が、取材ファイルに「資料」として残されている。ステンレス製で刃渡り10センチ以下。持ち手の部分はプラスチックで、見るからに安っぽい。
握ってみる。刃先は鋭いが、軽い。殺害目的で準備した、というよりも「護身用」の印象が強い。
敏さんは「将太が夜、外出することはほとんどなかった」と話す。この夜、2人は携帯メールのやりとりの末、たまたま現場で落ち合った。だとすれば、犯行に計画性があったとは考えにくい。偶発的な何かがあったのか。
自販機の強い光に照らされ、女子生徒が見た男の顔は極めて特徴的だ。
太い眉、肩のあたりで外にはねた長髪…。動くと、薄いナイロンが擦れる音がする「シャカシャカのジャージー」を着ていたという。
男は土地勘があったのか、あるいは「流し」による通り魔的犯行か。
今どこで息を潜めているのか。











