希少になった茅葺き民家は農村の原風景と言われ、その存在感は今も私たちの心を打つ。屋根を葺く材料に使われたのは、草原で刈ったススキやヨシ。身近な草地を利用する営みは、生態系とのつながりが深く、環境面から再評価が進んでいる。今回、取材を通じて若き職人や専門家らの話を聞くうち、茅葺き屋根を残す意義が広がって見えてきた。茅葺きはむしろ〝未来に選ばれる屋根〟かもしれない-。
■若き棟梁の活躍
昨年11月下旬、神戸市北区大沢町に立つ築140年の稲生家住宅は、地元の茅葺き業者「くさかんむり」によって屋根の葺き替えが進められていた。現場を訪れて驚いた。棟梁として工事を監督するのは、若い女性だった。高橋花歩さん(24)は大学の建築学科を卒業後に同社に入り、今は3年目だという。工期は9月末からの約2カ月間。高橋さんのほかにも若い職人が生き生きと屋根の上を動く。