標高が8千メートルにもなると、酸素の量は平地の3分の1になるそうだ。登るには酸素ボンベが欠かせない高い峰々に、登山家小西浩文さんは無酸素で挑んできた。頂に立てたのは計6座◆山仲間の悲報を何度も聞いた。生と死。分けたものはなんだろう。近著「生き残った人の7つの習慣」で力をこめるのは「準備」である。山に入ってからが勝負ではなく、入るまでが「危機管理の極意」だと◆近畿地方が梅雨入りした。一足先に雨の季節に入った沖縄・石垣市では、もう記録的な大雨が降った。暮らしを引き裂くような豪雨が今年もどこかで…と案じながら思い出すのが、小西さんの説いたこの「準備」◆事前に鍛えるのは心と体だけではない。こうなったらどうしよう。予想外の出来事からどう身を守ろう。「脳みそに汗をかくほどシミュレーションをする」。地味で面倒な段取りがあって、やっと頂に立てる◆コロナ禍の梅雨である。豪雨で避難するときは「3密」の心配がつきまとう。では住民はどうすればいいのか、それぞれの市や町は「脳みそに汗」で備えてほしい。住む地域で起きるかもしれない最悪の事態ってなんだろう。私たち自身も考えておきたい◆やさしく降る、慈雨。そんな言葉の似合う梅雨でありますように。2020・6・11








