刻む 原点
ご遺族の訴え、今も胸に

室崎益輝(よしてる)さん (70)
神戸大学名誉教授/京都市

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刻む 原点
ご遺族の訴え、今も胸に

室崎益輝(よしてる)さん (70)
神戸大学名誉教授/京都市

 突然、研究室の電話が鳴りました。地震の1カ月後です。
 「あなたがあんな想定をしたから、私の家族は死んだのです」
 震災前の神戸市の防災計画で、想定震度「5強」の決定に関わった僕は、ごうごうたる非難を浴びました。阪神・淡路の最大震度は7。学者には結果責任がある。逃げるつもりはなかった。でも、ご遺族からの訴えはこたえたなぁ。
 そのころ、ある講演で震災のことを話したら、涙が止まらなくなった。自分を責め、精神的に不安定になっていたのでしょう。
 反省は三つありました。
 地震の想定は文献に記録がある過去最大を前提にする、という当時の手法に無批判だったこと。学者が専門領域に分断され、知識の共有が足りなかったこと。行政に課題を指摘すれば市民に届くと思っていたこと。
 だから、震災後、研究者としての姿勢をガラリと変えました。
 死者を忘れない。根元を疑う。市民の中に入って考える。学者の会合と市民の集まりが同じ時間にあれば、後者を優先する。
 この姿勢は今も変わりません。もし震災がなければ、象牙の塔から世間を見下ろす「立派な学者」になっていたかもしれません。
 これがね、僕の原点。(聞き手・木村信行、写真・峰大二郎)
       ◇
 今月は、被災地で大きな役割を果たした人たちの原点に向き合います。


2015年1月 5日掲載
写真撮影場所:

神戸市中央区小野柄通7