未来を変える
脱炭素への挑戦

(4)限界 温暖化、訴える権利もなく

2022/09/22

 


 経済産業相の「是認」によって、神戸製鋼所の石炭火力発電所(神戸市灘区)増設計画に事実上のゴーサインを出した環境影響評価(環境アセスメント)だったが、審議の中で、地球温暖化や大気汚染を懸念する住民の声は加味されなかったのか。


 2017年8月、神戸市が灘区民ホールで開いた公聴会で、意見を述べた39人全員が反対や懸念を表明した。18年2月、兵庫県が芦屋市で開いた公聴会でも13人中12人が反対や懸念を述べた。これらの意見は神鋼側の見解と合わせ、県や神戸市の環境影響評価審査会で審議された。


 だが、県の審査会メンバーの一人は「環境アセスはあくまで手続き」と言い切る。住民の賛否は重要ではなく、「法律にのっとった段取りを踏めば、よほどずさんな計画でない限り通る」と明かした。


 最終的にまとめられた県知事意見は神鋼に「情報公開を通じた住民とのコミュニケーション」を求めつつ、計画自体は容認した。


石炭火力発電所の計画について、反対や懸念が相次いで示された公聴会の会場=2017年8月、神戸市灘区岸地通1



 住民らの思いはくすぶり続けた。そもそも、発電所の環境アセスは二酸化炭素(CO2)排出による地球温暖化問題に向き合っていないという指摘もあった。


 経産省の「手引」によると、アセスではCO2排出量を予測し、その環境影響についての配慮が適正かを検討する。だが、審査に当たった同省環境審査顧問会の一人は「審査の対象は事業実施区域内に限られ、気候変動問題といった広い視点は含まれていない」と指摘。「手引の範囲内で対応するしかなく、忸怩(じくじ)たる思いにかられることもある」と語った。


 18年11月、住民らはアセスを認めた経産相の確定通知は違法として、国を相手取り通知の取り消しを求める行政訴訟を大阪地裁に提訴した。21年3月、同地裁は訴えを退け、今年4月の大阪高裁判決も一審を支持した。


 いずれの判決も、「CO2の大量排出は人権侵害」との訴えに判断を下す以前に、原告が裁判を起こす資格さえ認めなかった。


     ◇


 裁判では、発電所によるCO2が原告の「個人の利益」を害しているかが問われた。住民は「気候変動の被害を受けない権利」を主張したが、大阪高裁の水野有子裁判長は「(公益であって)個人の利益とまでは言えない」と退けた。


 オランダやドイツの裁判所が近年、NGOや環境団体などが温室効果ガス排出削減を求めた訴訟で、政府にガス削減目標の強化を命じる判決を下しているのとは対照的だった。


 水野裁判長は「今後の社会情勢の変化によって、個人的利益として承認される可能性を否定するものではない」としたが、原告代表の広岡豊さん(74)は「気候変動問題について、日本では裁判で誰も訴えられないということだ」と憤った。


 環境アセスで反対の声は届かず、裁判に訴える権利さえもない。そして、地元で続く反対運動も、「お膝元」ゆえの限界を見せていた。(脱炭素取材班)