未来を変える
脱炭素への挑戦

(3)手打ち 増設是非ぎりぎりの攻防

2022/09/21

 


 「国の目標と整合性を持っていると判断できず、是認しがたい」


 2015年6月、山口県宇部市で計画されていた石炭火力発電所建設計画の環境影響評価(環境アセスメント)で、環境省が経済産業省に提出した意見は、関係者に衝撃を与えた。


 東日本大震災後、原発の運転停止に伴う電力不足を受け、燃料費が安い石炭火力発電所の新増設が各地で計画されていた。形骸化も指摘されていた環境アセスで、環境省がこれほど強い姿勢を打ち出すのは異例だった。


 その後、環境省は同年11月までに4件の石炭火力発電所計画に「是認できない」との意見を提出した。意見に強制力はないものの、「是認できない」5件のうち、最終的に4件が計画を断念した。


 一方、神戸製鋼所の石炭火力発電所(神戸市灘区)増設計画は、宇部市での計画が「是認しがたい」とされた4カ月前、環境省の容認を取り付けていた。


環境省と経済産業省=東京都千代田区



 何が明暗を分けたのか。このアセスに関わった環境省幹部は「神鋼の計画通過はぎりぎりでしたね」と記憶をたどった。「その後、政府から温室効果ガスの削減目標や電源構成が示されたんです。環境省に石炭は駄目と主張する根拠ができた」と振り返る。


 神鋼の計画が通った後、政府は温室効果ガス削減の30年目標を決定した。そこから導き出した二酸化炭素(CO2)排出の許容量を、今後の発電所新増設も踏まえた予想排出量が超過することが判明したという。


 結果的に「ぎりぎりセーフ」となった神鋼の計画だったが、発電所のアセスで、環境省の意見提出は4段階の審査のうち、第1段階と第3段階の2回ある。神鋼は第1段階を終えた状態で、状況が変わらなければ最終段階での容認は危うかった。


 だが、経産省の介入による突然の「手打ち」が、事態を一転させる。


     ◇


 16年2月、環境省と経産省は石炭火力発電所の新設容認で合意した。CO2削減を目指す電力業界の自主組織設立や、火力発電効率の数値目標設定などを取り付けたが、専門家らは目標達成の実効性などに疑問を呈した。


 「石炭火力を推進したい経産省に環境省が押し切られた」とみる向きもあり、合意過程を知る環境省OBは「経産省には『(エネルギーは)こっちに任せろ』というようなことを言う人もいた」と明かす。一方で「当時打てる最良の手は打った」とも語る。


 石炭容認に転じた環境省だったが、それでも18年3月、神鋼計画の審査第3段階の審査で、将来的に発電所の休廃止などを求める意見書案をまとめた。だが、提出前に経産省が複数箇所の修正や一部削除を求め、「休廃止」は削除された。


 環境省の意を決した石炭阻止の構えは、経産省に崩された格好となり、同年5月、神鋼の石炭火力増設計画は経産相に「是認」された。(脱炭素取材班)