未来を変える
脱炭素への挑戦

EV転換 バイクも加速

2023/02/06

 カワサキなど大手 看板シリーズ投入へ


 昨年11月、イタリア・ミラノで開かれた欧州最大級の二輪車ショー。定番のライムグリーンがちりばめられた「カワサキ」の2台のバイクが、ひときわ注目を浴びていた。


カワサキモータースが初めて披露した電動二輪車の試作品。左が電動、右が電気とガソリンのハイブリッド型=2022年11月、イタリア・ミラノ(川崎重工業提供)



 人気シリーズの「Z」と「Ninja(ニンジャ)」をベースとした大手初の電動スポーツモデルバイク。川崎重工業の子会社カワサキモータース(兵庫県明石市)が出展した試作品だった。


 甲高いモーター音は出るが、エンジン車より静かで、走行時に二酸化炭素(CO2)を排出しない。交換可能なバッテリーを2個搭載し、通勤・通学など近距離の利用を想定する。


 同社は2023年中にこの2機種の発売を予定し、35年までに日本や欧米向けの主要車種を電動化する方針を示す。


 開発は明石工場(同)で担い、兵庫発の技術で飛躍を期す。伊藤浩社長は「走り、操る楽しさを電動化でも追求し、脱炭素との両立を目指す」とする。


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 欧州に発して世界を覆う自動車電動化の波は、二輪にも及ぶ。


 業界最大手のホンダは、配送用途を想定したビジネス用スクーターを法人向けに発売。個人向け車種も投入し、30年には総販売台数の15%に当たる年350万台の電動車販売を見込む。ヤマハ発動機は、電動バイクの比率を35年に20%まで引き上げる計画だ。


 課題は航続距離だ。電動二輪は一度の充電で100キロ程度の走行が限界とされる。充電ではなく、バッテリー交換方式での普及を目指し、国内二輪大手4社は21年、電動車のバッテリー共通化で合意。22年にはバッテリー交換所の整備・運営を担う合同会社「ガチャコ」を設立した。


 同社の渡辺一成社長は「バッテリー切れが気になっては購入につながらない。車種開発と同時に、インフラ整備も進める」とする。「日本でノウハウを構築し、海外展開につなげたい」と先を見据える。


 時代の先を進むモビリティー(移動手段)の脱炭素化。暮らしを支える乗り物の変化は、新たな生活様式を生み出しつつある。(横田良平)



■移動と蓄電 EV一人二役


 電気自動車(EV)を持つ家庭が増える中、移動手段以外でもEVを活用する動きが広がっている。


 神戸市灘区の会社員若菜健太さん(42)は昨年10月、日産の軽EV「サクラ」の購入に合わせ、EVから住宅に放電する設備「V2H(Vehicle to Home)」を約80万円で購入した。


V2Hの設備(左)から日産のEVに充電する若菜健太さん=神戸市灘区



 「電気代は以前より安くなる計算です」と若菜さん。料金が安い深夜帯にEV内の蓄電池に充電し、高い日中に車から住宅に電気を送る。太陽光パネルで発電した電気の固定価格買い取り期間が終了する5月以降は、発電した電気は全てEVに蓄電する予定だ。


 兵庫日産自動車(神戸市中央区)の担当者は「太陽光パネルを設置した一戸建てに暮らしていて、蓄電池を付けようか迷っている人たちがV2Hを選んでいる印象」という。


神戸新聞NEXT



 2022年度、国はV2Hを導入する個人を対象に半額(上限75万円)を補助する事業を初めて実施。兵庫日産も「事業が始まって一気にV2Hの購入者が増えた」という。22年10月末で申請の受け付けは終了したが、23年度も事業を行うことが決まっている。


 さらに、今年2月にはパナソニックがV2Hの商品を発売するなど、市場は活況を帯びそうだ。


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 小型で音も静かなEVの特長を、暮らしや旅行の細かな移動に取り入れる試みも各地で行われている。


 同県三田市などは22年11、12月、高齢化が進む地域で、ゴルフカートを改造した4人乗りEVを時速20キロ未満で周回させる実験を行った。徒歩や自転車に代わる移動手段として、自動車が通れない陸橋やマンションエリアも運行。スーパーへの行き帰りに使う住民も多く、同市の担当者は「きめ細やかな周回には、小回りが利くEVが最適」とする。


三田市などが実験的に運行した4人乗りEV。ゆっくり走り静かなため、生活空間に溶け込む=三田市内



 今年1月にはNPO法人が、天守閣に登ることができない観光客にも姫路城を楽しんでもらおうと、周辺を電動の1人乗り自動運転ロボットで巡る実験を実施。旅行大手JTB(東京)も昨年12月、神戸市中心部で観光客に1~2人乗りEV「BIRO(ビロ)」を貸し出す実証を行った。


 旅行先の国の環境意識を気にする外国人観光客もおり、観光業界は「脱炭素の対策が遅れると日本が敬遠されてしまうのでは」と危惧している。


 JTBの担当者は「地域内を巡るために利用する移動手段を脱炭素化していくことは観光業界にとって一つの課題。ビロなどで持続可能な観光に貢献していく」と話していた。(堀内達成)



■国のEV購入補助、最大85万円


 日本の二酸化炭素(CO2)排出量のうち、自動車からの排出は全体の15・5%を占める(2020年度)。脱炭素化に向け、国や自治体は電気自動車(EV)などを購入する個人や法人に補助を行っている。


 国はEVやプラグインハイブリッド車、燃料電池車の購入費を補助。22年度はEVの補助額を従来の40万円から最大85万円に引き上げた。EVから自宅や事務所に給電できる機能の有無で補助額に差をつけ、災害時の停電への備えを促す。


 軽自動車規格EVの販売が好調で、補助金の当初予算は早々に底を突いた。国は約700億円を追加し、申請を受け付ける手続きを進める。


 国の制度と並行して、各自治体の補助も利用できる。兵庫県内で22年度、EV購入の個人向け助成制度を設けたのは6市。22年度から個人向け助成を始め、半年ほどで予算枠が一杯になった姫路市は「軽EVの発売もあり、申し込みが多かった」。加古川市や丹波篠山市は申請の多さに予算を増額して対応した。


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 県は事業者向けに購入補助を行う県内各市の補助額の半額を負担。中小企業やNPO法人がEVを購入する際の低利融資も行っている。(横田良平)