木造新時代、ビル建築に多用
尼崎の企業社屋、鉄骨よりCO2排出減
JR尼崎駅近くに、ガラス越しに格子状の木材が目を引くビルがある。環境装置メーカー「タクマ」(兵庫県尼崎市)の6階建ての本社新館だ。玄関ドアが開くと一面が木材のロビーが現れ、木の香りがふわりと漂う。

木のぬくもりを感じさせるタクマ本社新館の6階フロア=尼崎市金楽寺町2(撮影・秋山亮太)
「なるべく多くの木を使ったビルを造りたかったんです」と、同社の辻田直樹総務課長。同社は木質バイオマスの発電プラントなど環境配慮型事業をPRしようと、2年前にこの「木造ビル」を完成させた。

ガラスで囲まれた格子状の木材が特徴的なタクマの本社新館=尼崎市金楽寺町2(撮影・秋山亮太)
効果的な木材の見せ方などを重視し、鉄骨とのハイブリッド建築を採用した。使った木材は、国産材を中心に一般の木造家屋16軒分に上る。建築費用は鉄骨よりも1~2割増したが、木材活用を促す国の補助金でカバーした。
□
木材を使った建設は、二酸化炭素(CO2)の排出量が鉄やコンクリートより少ない。さらに、木が1年間に吸収するCO2の量は樹齢40~50年でピークを迎えるため、伐採して苗木を植えれば、より多くのCO2吸収につながるとされる。
脱炭素への意識の高まりを背景に近年、都市部の建物に木材を活用する動きが広がっている。今年3月、横浜市に大林組(東京)の11階建て木造ビルが誕生したほか、大手ゼネコンや建築メーカーなどによる中高層ビル開発が相次ぐ。
木造の中高層ビルは、耐火性や強度の改善などの技術が進み、建設が可能になった。タクマのビルを手がけた竹中工務店(大阪市)の担当者は「不動産価値が上がり、賃貸の入居者も増えるため、不動産業界や金融機関の動きが活発化している」と話す。
□
木材活用は、建物にとどまらない。空港や工場などのゲートを扱う応緑(オーリョク、姫路市)は、ほぼ全てを木製にしたゲートを開発している。
液体ガラスを木材の内部まで浸透させる技術で、防腐や防火といった従来の難点を克服した。ゲート事業部の橋本茂幸部長は「大手設計事務所の関心も高い。メンテナンスも含めて商品化し、脱炭素社会の実現に貢献したい」と意気込む。
一方で、脱炭素燃料としても注目を集める木材は、世界的な価格高騰の余波にさらされていた。(石沢菜々子、森 信弘)
■木材争奪戦、発電用ピンチ
関西電力は11月30日、子会社が運営する「朝来バイオマス発電所」(兵庫県朝来市生野町)での発電を停止する、と発表した。兵庫県産木材チップのみを燃料とする発電の取り組みは、わずか6年で行き詰まった。
2016年に稼働した同発電所は、間伐後に放置された未利用材を活用。一般家庭約1万2千世帯分にあたる年間約3700万キロワット時を売電してきた。だが、木材価格の高騰で、燃料供給を担ってきた県森林組合連合会(県森連)の赤字がかさみ、関電側に事業撤退を申し出た。
米国の住宅需要増や中国の景気回復に伴う世界的な木材価格の高騰「ウッドショック」の影響で、輸入材の代替として国産材の需要が急増。曲がった木など従来は燃料用に回されていた木が住宅用に使われるようになり、全国的なバイオマス発電の増加もあって、燃料用木材の価格が高騰していた。
建築木材価格は輸入量回復に伴って下落傾向だが、燃料用は「製紙用との競合で高止まりが続いている」(県森連)という。林野庁によると、燃料用が以前よりも集めにくいのは全国的な傾向だ。「奪い合い」が落ちつく気配はまだない。
木材は二酸化炭素(CO2)排出減に資する建材・資材としてだけでなく、バイオマス発電の燃料として、脱炭素社会に不可欠な資源となりつつある。需要が高まる今、兵庫県は間伐後に山中で放置されてきた未利用材の先端や根元部分なども発電に活用するビジネスモデルの確立を探る。
実験に選んだのは、兵庫県神河町の山林だ。これまで、枝葉が付いた木は体積がかさんでトラックに多くを載せられず、1回数万円の運送費の採算が取れなかった。実験では、枝葉の方向など積み方を工夫し、採算が取れる方法を探ってきた。

伐採後に放置されている残材。木材チップに使用するため作業員が集める=10月、兵庫県神河町上小田(撮影・吉田敦史)
県は23年度、データを整理して実施可能かを検討するという。県林務課の竹中寛班長は「1本の木からできるだけ多くの価値を出すことが重要だ。これで採算が取れれば林業者にとって有益で、燃料の安定供給にもつながる」と語る。
CO2を吸収する森林の育成や保全には、企業の関心も高まっている。森林保全活動の成果で生じるCO2吸収量を購入して自社のCO2排出を相殺する「カーボンオフセット」の利用が進み、企業が社会貢献として社員ぐるみで取り組む森林保全活動も広がりを見せる。
兵庫県では07年度に始まった「企業の森づくり」の事業で、神戸製鋼所(神戸市中央区)や川崎重工業(同)をはじめ43社が県と協定を結び、社員らが里山の整備や植樹などに参加する。県治山課によると、最近は「脱炭素に役立てるために活動したい」といった企業からの問い合わせが増えているという。

細い木を間引き、森を整備する企業の社員=5月、西脇市黒田庄町門柳
担当者は「企業と活動場所のマッチングなど兵庫は先進的に取り組んでおり、情報提供にも力を入れたい」としている。(森 信弘)
◇ ◇
■バイオマス発電所相次ぎ稼働、原木生産回復30年ぶり水準に
兵庫県内の原木(丸太)生産量は増加傾向が続く。2014年度からは、木質バイオマス発電への供給が始まった燃料の需要がけん引。21年度は「ウッドショック」の影響で国産材の需要が急増し、25年度の目標だった52万7千立方メートルを達成した。
県によると、県内の人工林は約22万1千ヘクタール。スギが約49%、ヒノキが約42%を占める。多くは伐採に適した時期を迎えており、再び植樹すれば低下した二酸化炭素(CO2)の吸収効率も向上する。

神戸新聞NEXT
原木生産量は1960年度には年90万立方メートルあったが、安価な外国産材に押され減少してきた。建材用(製紙用含む)は合板加工の活性化とともに11年度から増えたものの、17~20年度は減少傾向が続いていた。
一方、木質バイオマスは15年に赤穂市で、16年に朝来市、17年に丹波市で発電所が稼働した。いずれも民間企業が運営し、間伐材を加工したチップなどを使用。21年には、赤穂市で新たな発電設備が稼働した。
燃料需要の高まりで、16年度以降の原木生産量は年40万立方メートルを超え、約30年前の水準に匹敵するようになっていた。ウッドショックによる「特需」をへて、現在は海外からの輸入量が回復し、需要が落ち着きつつある。
県林務課は22年度は横ばい以下とみており、今後は「人口減などで住宅用の需要増は難しいが、幼稚園や福祉施設などの建物で木材の利用を増やしたい」としている。(森 信弘)