(2)薄氷の切り札 「グリーン水素」コスト課題
1月下旬、姫路市で開かれたシンポジウム。「水素社会の先進地『兵庫・神戸・姫路』に向けて」と題した討論に、神戸製鋼所(神戸市中央区)の執行役員が登壇した。
役員は産業用ボイラー燃料を液化天然ガス(LNG)などから水素に転換する実証事業を始めることに触れ、「水素の利活用は産業界のニーズも高い。開発を進め、脱炭素に貢献したい」と意欲を示した。
燃焼時に二酸化炭素(CO2)を出さない水素は、アンモニアと並んで脱炭素の切り札とされる。川崎重工業(神戸市中央区)などは昨年、オーストラリアで生成した水素を液化し、専用の運搬船で神戸港に輸送する実証に世界で初めて成功した。

神戸空港島の専用荷役基地に停泊する液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」=2022年3月、神戸市中央区神戸空港
だが、その次世代エネルギーには乗り越えるべき課題がある。川重などが輸入しようとしている水素は、石炭でつくられている。
水分や不純物などを多く含む低品質の石炭「褐炭」。安価に調達できるが、水素を製造する過程でCO2が出る。これは「グレー水素」と呼ばれ、脱炭素とみなされない。
川重などは将来的に、CO2を回収して地中深く埋める技術で大気中への排出を抑えた「ブルー水素」の輸入を目指す。再生可能エネルギー(再エネ)による「グリーン水素」の製造も始まっているが、膨大なコストへの対応が続く。
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一方、発電への利用はアンモニアが先行する。国内の発電所で石炭と混ぜて燃焼(混焼)させる実証実験が進められ、2027年度の商用化が予定されている。
神戸製鋼所は石炭火力発電所で早期の混焼開始を目指す。将来、アンモニアのみの燃焼(専焼)による発電ができれば、50年以降も稼働が可能と見込む。
京都大の松下和夫名誉教授(環境政策)は「技術確立には膨大なコストが見込まれ、商用化できない恐れもある。短期的観点から既存の化石燃料火力やインフラを温存するのではなく、再エネの拡大活用が必要だ」と指摘する。
アンモニアは調達も大きな課題だ。現在の国内需要は年間約100万トンで、ほとんどが化学肥料に使われる。資源エネルギー庁によると、出力100万キロワットの石炭火力発電所で20%を混焼するにはアンモニア約50万トンを要する。
4基の合計出力が270万キロワットに上る神戸製鋼所の石炭火力発電所で20%混焼を実現するには、現在の国内需要を超える135万トンのアンモニアが必要となる。国内大手電力会社の石炭火力発電所全てで20%混焼すれば年間2千万トン、専焼では1億トンを要する。
だが、同庁は30年の需要を300万トン、50年の需要を3千万トンと予測する。燃料をアンモニアに転換する石炭火力発電所は一部にとどまるという計算だ。
電源の不足をどう補うのか。政府が打ち出したのは、原発への回帰だった。(脱炭素取材班)