東北大 明日香壽川教授
原発活用方針は非合理的
脱炭素社会の実現に向け、政府は昨年、東京電力福島第1原発事故後の方針を大きく転換し、原発の新増設や運転期間60年超への延長を盛り込んだ基本方針を決めた。原発活用のリスクや課題について、東北大の明日香壽川教授(63)=環境エネルギー政策=に聞いた。(聞き手・石沢菜々子)

東北大の明日香壽川教授
-原発は脱炭素対策になるのか。
「原発への投資は、同じ金額を太陽光などの再生可能エネルギー(再エネ)や省エネに投資した場合と比べ、二酸化炭素(CO2)削減量は数分の1でしかない。しかも建設工期が長く、排出削減の実現は十数年後。これだけでも非合理的です。さらに事故や放射性廃棄物、核拡散、攻撃対象になるリスクといった固有の問題があるため、最悪の選択肢と言えます」
-だが、政府は原発活用にかじを切った。
「国が活用するとアナウンスして補助金を出すことで業界は維持されます。建設すれば1兆以上のお金が動くので大きな利権が生まれ、核兵器転用技術ポテンシャル維持のために必要と主張する人もいます。ただ新設のハードルは高く、まずは再稼働や運転延長で電力会社の短期的な収益を改善したいのでしょう」
-原発や石炭火力を使わない道はあるのか。
「私が参加する研究グループは、各電力管区の過去4年間で、再エネが最も使えず、かつ電力需要が最大だった日を選び、その日と同じ条件で2030年に石炭や原発を使わないとどうなるかを調べました。その結果、北陸電力と四国電力で、一部の時間帯で管区内のみでは需給バランスが取れないものの、対策を講じれば問題ないことが分かりました」
-具体的には。
「まず他管区からの電力融通で対応します。ピーク時の料金値上げや非ピーク時の値下げなどによって電力消費量を抑制し、使用時間帯をシフトするデマンドレスポンスも有効です。蓄電池の導入も進んでいるでしょう」
「再エネ・省エネ投資で雇用も増えます。『電力需給が厳しく、温暖化対策のためにも原発は必要』という単純かつ間違った議論にだまされず、より合理的な政策を政府に求めていくべきです」
【あすか・じゅせん】1959年生まれ、東大大学院(学術博士)。1997年から現職。地球環境戦略研究機関(IGES)気候変動グループ・ディレクターなどを歴任。