未来を変える
脱炭素への挑戦

龍谷大 大島堅一教授

2022/07/04

 電力逼迫 市場の構造的問題


 原油高や電力不足、脱炭素対策を理由に、政府や経済界から原子力活用を求める声が上がる。一方で札幌地裁は5月末、津波対策が不十分として北海道電力泊原発の再稼働差し止めを命じた。電力安定には何が必要なのか。龍谷大の大島堅一教授(環境経済学)に聞いた。(聞き手・石沢菜々子)


電力逼迫問題や原子力活用のリスクについて語る龍谷大の大島堅一教授=京都市内



 -電力逼迫(ひっぱく)で、原子力活用を求める声が上がる。


 「逼迫と電源の種類は別の問題です。日本の電気事業は発電と小売りを分離しておらず、電力自由化後、大手電力会社は自分のところで売る分を満たすための発電をしています。その中で、採算が取れなくなった石油や石炭の火力発電を減らしているので不足している。絶対的に電力が足りない訳ではなく、大手が発電設備を絞っているということ。電力市場の構造的な問題であり、国のコントロールミスです」


 -電気代も高い。


 「大手電力会社内部での発電と小売りの間の取引価格は、一切公開されていません。電力会社は自社の利益を出せるようにしているだけですが、電力安定化のためにも、国が発電と小売りを分離し、内部取引も透明化させていくべきです」


 -他に安定化の方策は。


 「供給の話ばかりになっていますが、例えば電力不足が予想される時間帯に電気料金を高くするなど、電力の需要を下げる商品が必要です。東日本大震災後、そうした市場の重要性が指摘されてきましたが、うまくいっていません」


 -その上で、原子力という電源をどう考えるか。


 「政府試算で、発電コストは太陽光の方が安い。福島の教訓を踏まえ、全国の原発の追加的安全対策費は膨らみ続けています。泊原発を巡る地裁判決では、原発が本質的に危険であり、安全性がないことがあらためて分かりました。トラブルで1基が止まればその分電力不足になり、安定した電源とも言えません」


 「政府は脱炭素対策としても活用しようとしていますが、既存原発はこれから廃炉の時期を迎え、2050年にはほとんど動いていません。人口減少が急速に進む中、再生可能エネルギーを最優先でつなぐ電力改革など、小規模で省エネになる仕組みに切り替えていかないと間に合いません」


【おおしま・けんいち】 1967年福井県生まれ。一橋大大学院博士(経済学)。立命館大学教授などを経て2017年から現職。