神戸大大学院法学研究科 島村健教授
「石炭火力」新設 国益損なう
世界の脱炭素化への流れが強まる中、国内では神戸市などで石炭火力発電所の新設が続く。一方、ロシアによるウクライナ侵攻の影響で化石燃料の価格が高騰し、エネルギー市場に混乱が起きている。日本が置かれている状況を、神戸大大学院法学研究科の島村健教授(環境法)に聞いた。(聞き手・堀内達成、撮影・坂井萌香)

-神戸製鋼所の石炭火力発電所を巡り、住民らが環境影響評価を認めた国の確定通知取り消しを求めた行政訴訟で4月、大阪高裁の判決が出た。
「発電所周辺の住民らに、温暖化による損害を裁判で争う資格『原告適格』が認められるかが注目点でしたが、二審でも認められませんでした。ドイツやオランダの裁判所は、温暖化の被害を人権侵害として捉えています。今回の判決は、温暖化による被害を受けないという利益は、個人の利益とはいえないとしており、違いが際立ちました」
-脱石炭火力が世界の潮流だが、日本では発電所新設が続く。
「先進国では日本だけで、異常な状態です。温暖化の観点で、建設に歯止めをかける枠組みがないことも一因です。政府の温室効果ガス削減目標の達成が危ぶまれます」
-この状態が続くとどうなるのか。
「日本の製造業が大きなリスクを負い、国益にとっても深刻です。化石燃料由来の電気が減らないと、米アップルやマイクロソフトといった世界的な企業のバリューチェーン(分業体制)から、日本企業が除外されてしまう。環境面だけでなく、日本の製造業を守る意味でも、電気の脱炭素化が欠かせません。カーボンニュートラルを宣言している日本企業の目標達成のためにもやはり、電力の脱炭素化は不可欠です」
-ウクライナ危機で原油や液化天然ガス(LNG)、石炭が高騰し電気代がさらに上がる可能性もある。
「ロシアのような権威主義国に資源を依存していると、こうした事態が起こります。洋上風力や太陽光などの再生エネルギー割合を増やし、化石燃料依存から脱却することが日本の安全保障につながります」
【しまむら・たけし】1973年、埼玉県出身。東京大大学院法学政治学研究科博士課程単位取得退学。2012年から現職。