(6)補完の構図 大停電の危機、調査なく再稼働
2021年1月3日、正月休み中だった神戸市環境局の担当課長の携帯電話が鳴った。神戸市灘区にある神戸製鋼所の石炭火力発電所の担当者からだった。「早急に1号機を立ち上げたい」。声に焦りがにじんでいた。
その前日、1号機は作業ミスから、排出された窒素酸化物(NOx)の濃度が神戸市と定めた協定値を上回るトラブルが起き、停止していた。隣の2号機も定期点検で停止中だった。
神鋼側は当初、4日以降に再稼働の手続きに入るつもりだったが、関西電力(大阪市)からの発電要請で状況が一転したという。この時期、日本列島は強い寒波に襲われ、電力需要が高まる一方、関電管内の原発は定期点検などが重なり、稼働ゼロとなっていた。
神鋼側は3日夜、トラブルの原因と再発防止策を市に報告。市は07年12月に協定値を超過した際は行った立ち入り調査はせず、翌4日、1号機は再稼働した。市幹部は「間に合わなければ、大停電が起きていたかもしれない」と振り返る。
協定値超過が公表されたのは、再稼働翌日だった。

観光都市・神戸が誇る夜景。電力は都市を支える一方、燃料の在り方が問われている=8月、神戸市灘区摩耶山町、掬星台
この経緯は、点検などでたびたび停止する原発を補う石炭火力という構図を表すとともに、大停電の危機の前では、環境保全協定も重しにならない可能性を示した。
この一件があった20年度、関電の原発による発電割合は17%にとどまり、前年度の27%から大きく落ち込んだ。原発は大規模な発電が可能な半面、定期点検などでひとたび停止すればその影響が大きい。
東日本大震災後、国内の原発は一時停止し、電力逼迫(ひっぱく)の危機に直面した。当時、関西広域連合長として電力確保に奔走した井戸敏三・前兵庫県知事は「関西は、原発への依存度が高い。今ある(関電の)原発をどう動かすか、という議論だった」と回顧する。
同時に、足元の兵庫では、原発の補完電源として神鋼の増設計画が進んだ。井戸前知事は「増設した分、県内にある関電の(より二酸化炭素=CO2=排出量が多い)古い火力発電所を稼働させない。関電の分も含めて、CO2排出量を増設前と変えないことを大原則にした」と語る。
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東日本大震災の原発事故から11年が経過し、政府は脱炭素社会に向けたグリーントランスフォーメーション(GX)として、CO2を排出しない原発への回帰を打ち出した。
次世代型原子炉の新設検討に踏み込み、既存原発も60年超の運転期間延長案が浮上している。「座礁資産」とされる石炭火力もまた、脱炭素の圧力や燃料価格高にもかかわらず、原発の補完電源として生き残ろうとしている。
龍谷大の大島堅一教授(環境経済学)は「原発の活用は安全性やコスト面から現実的ではない」とした上で、「政府は電力会社などの既得権益を守ろうと、原発や化石燃料に固執しているようだが、再生可能エネルギーの導入が進まず、真の脱炭素対策が遅れるばかりだ」と指摘する。
(脱炭素取材班)
=第2部おわり=