未来を変える
脱炭素への挑戦

(5)国策 最新鋭発電技術の輸出幻に

2022/11/27

 


 東日本大震災後、原発停止を受けて新たな電源を確保するという役割に加え、神戸製鋼所が増設を計画した石炭火力発電所(神戸市灘区)には、もう一つの期待があった。


 「最新の輸出商品として世界にアピールできないか。そういった話もありましたよ」


 2014年に神鋼が打ち出した増設計画を巡り、経済産業省が描いた思惑を、同省幹部が振り返る。それは、石炭火力発電所を「脱炭素技術」として途上国に移植し、同時に外需を取り込むという国策だった。


 政府は日本の石炭火力発電を「発電効率が高く、二酸化炭素(CO2)排出を抑えられる」とアピールしていた。日本の技術を提供して相手国のCO2排出削減量を日本の実績にし、併せて外貨を稼ぐ-。そんな算段だった。


 同省OBは「日本の『クリーンコール技術』で発電所を造ることは(非効率な技術で造るよりも)良いことだと。それが当時の(官僚や政治家たち)皆の頭の整理でしたね」と語る。


煙突から水蒸気を吐き出す神戸製鋼所の石炭火力発電所=昨年12月、神戸市灘区



 ただ、当時の安倍晋三首相が描いてきたインフラ輸出の「一丁目一番地」(経産省幹部)は、石炭火力より原発だった。だが、東京電力福島第1原発事故でその方針は停滞し、石炭火力に期待がかかった。


 安倍首相は就任早々の13年1月、ポーランドで予定されていた国連気候変動枠組み条約第19回締約国会議(COP19)を見据え、技術で世界に貢献することを目標にした「攻めの地球温暖化外交戦略」をつくるように関係閣僚に指示。国策として石炭火力輸出の加速を図った。


 だが、時勢は既に、逆境に差しかかっていた。欧州諸国が「石炭は絶対駄目」と言い出す中、「石炭火力の技術を手放すわけにはいかない」と考えた経産省が期待したのが、神鋼の増設発電所だった。


 国内で最先端技術の実績を積み、世界を納得させたい-。神鋼の元役員は「国内重工メーカーが設備を造り、石炭のノウハウがある神鋼が安定的に操業する。そのオール日本の枠組みを、国は発信していきたいと考えていたのでは」と明かす。


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 だが、石炭火力の最新技術で脱炭素化の実を挙げる試みは、海外には通用しなかった。「日本は石炭に固執している」という批判は苛烈化し、技術そのものも中国などに追いつかれ、優位性を失いつつあった。


 21年6月、日本などの先進7カ国首脳会議は、CO2の排出削減対策が講じられていない石炭火力の新規輸出支援を年内で終了することに合意した。今後の支援対象は、CO2を地中に貯留する「CCUS」や、CO2排出を劇的に抑制するアンモニア混焼などの技術を備えた次世代の石炭火力に絞られるとみられる。


 最新鋭とされた神鋼の石炭火力発電の技術輸出プロジェクトだったが、いつしか、国際的な石炭の廃止圧力にうずもれていった。(脱炭素取材班)