未来を変える
脱炭素への挑戦

(4)予定調和 「神鋼を想定したような入札」

2022/11/26

 


 2013年、震災復興のシンボルだった高炉の廃止を決めた神戸製鋼所(神戸市中央区)が、跡地に石炭火力発電所を増設するのは自然な流れだった。


 だが、作った電気を誰かに買い取ってもらえなければ事業は成り立たない。その後、関西電力が新たな発電事業者を募る入札を実施し、神鋼のみが手を挙げて30年間の売電契約を取り付ける流れは、予定されていたかのように進んだ。


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 折しも、東日本大震災後の原発停止による電力不足を受けて、経済産業省は12年9月、火力発電所の新たな入札指針を発表し、火力電源の増強に踏み切った。社外取締役などに経済産業省や中小企業庁のOBを招いていた神鋼は、こうした政府の動向に機敏だった。


 指針を受けて入札の実施を検討していた関電は、早い段階から神鋼の増設計画に着目していたという。関電幹部は「神鋼は発電所1、2号機で10年の実績があった」と振り返る。


 14年4月、関電は神鋼の1、2号機と同規模となる出力150万キロワットの火力電源の入札募集要綱を公表した。これに呼応するように、神鋼は同月、140万キロワット級の増設計画を発表し、入札への参加を表明した。


 入札説明会には約40社が参加したが、実際に手を挙げたのは神鋼1社だった。電力事業に関わった神鋼OBは「神鋼を想定したような入札と、神鋼の計画を聞き、検討もできなくなった社が多かったのでは」と推測する。


高炉跡地で建設が進む神戸製鋼所の石炭火力発電所3号機=2020年8月、神戸市灘区



 「予定調和」の背景として、このOBは当時の関東での波乱を挙げる。神鋼は栃木県真岡市で、合計出力120万キロワットのガス火力発電所を建設。当初は東京電力に売電する予定だったが条件が折り合わず、14年、東京ガスと契約を結んだ。


 関西でも大阪ガスが家庭向け電力小売りに参入するとみられていた。OBは「関西で同じことにならないよう、関電は(神鋼の)首根っこを押さえたかったのではないか」と話す。


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 17年以降、原発再稼働で「代役」の役割を失った赤穂や高砂の石炭火力発電所計画が相次いで頓挫したのに対し、神鋼の増設計画は残った。


 行政関係者は、老朽化した赤穂、高砂の発電枠が将来的に神鋼の最新鋭発電所に置き換わることで、二酸化炭素(CO2)排出を含む環境負荷が減らせると見込む。神鋼OBも「高炉で鉄を作るよりCO2排出は少なくなる。他で発電所を造るよりCO2排出削減になる」と指摘する。


 とはいえ、50年のカーボンニュートラル(CO2排出の実質ゼロ)を掲げる関電にとって、向こう30年の石炭火力は重荷になる。関電幹部は「将来的に今の石炭火力では生き残れない。多分、神鋼さんも分かってますよ」と話す。


 原発の代替電源として、関電との「あうんの呼吸」で打ち出され、脱炭素圧力をくぐり抜けてきた増設計画。電力供給の安定確保に加え、もう一つの国策を負っていた。(脱炭素取材班)