(1)3強3様 原発回帰、揺れる発電戦略
「トップランナーの2社を視察させてもらい、本日は大変有意義だった」
10月初旬、川崎重工業(神戸市中央区)などが神戸・ポートアイランドに設置する水素発電施設と、三菱重工業神戸造船所(同市兵庫区)を訪れた西村康稔・経済産業相は記者団に満足げに語った。小さなハプニングはその後に起きた。
「私からは以上です」と冒頭の発言を終えた西村経産相に、随員が「大臣、水素がまだ…」とささやいた。西村経産相は「あ、そうそう、水素の話。ごめんなさい」と引き取り、地球温暖化の要因となる二酸化炭素(CO2)を出さない次世代エネルギーである水素への展望を語った。
その水素への言及を忘れるほど、その前段で西村経産相がとうとうと述べたのは、原子力への強い期待だった。三菱は9月、関西電力など電力大手4社と次世代型原子炉を開発する方針を発表していた。
図らずも原発への熱の入れようをあらわにした西村経産相は「国民に丁寧に説明し、理解をいただきながら、(原発新増設の)議論を加速させたい」と力を込めた。
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三菱が原子炉、川重が水素で「GX(グリーントランスフォーメーション)」の戦略を描く一方、兵庫県に拠点を置く重厚長大三大企業のもう一角、神戸製鋼所(同市中央区)は今、同市灘区で石炭火力発電所3基を運転し、さらに1基の増設を予定する。

来年2月に4号機の運転開始を予定する神戸製鋼の石炭火力発電所=神戸市東灘区、六甲アイランドから(撮影・小林良多)
大量のCO2を発生させる石炭が「座礁資産」と呼ばれる中、CO2を排出しないアンモニアへの燃料転換に活路を求めるが、技術、コスト面で課題が多い。
造船、鉄鋼分野で長く日本経済を支えた三菱、川重、神鋼だったが、国際競争力の低下などで1990年代に転換期を迎え、それぞれの道を歩む。さらに、2011年の東日本大震災を経た政府のエネルギー政策の変遷が、3社に明暗をもたらした。
国内の原発が停止し、三菱の原子炉輸出計画は一部でストップした。代わって安価な石炭が注目され、神鋼は発電所の増設に乗り出す。だが、石炭は温暖化の元凶としてやり玉に挙げられ、水素に期待が集まる。
そして、岸田政権は22年8月末、GXの名の下に「原発回帰」を打ち出し、原発新増設の検討を始めた。歩調を合わせるように、三菱が打ち出したのが、次世代型原子炉の開発だった。
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東日本大震災後、兵庫県内では石炭火力発電所6基の建設が計画され、うち4基は頓挫した。残ったのが、神鋼の増設2基だった。

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ロシアによるウクライナ侵攻の余波で石炭市場が高騰する中、神鋼は電力事業の収益悪化に耐えつつ、来年2月に増設2基目の稼働を予定する。なぜ、神鋼の計画だけが生き残り、他は頓挫したのか。
エネルギー政策に関わってきた兵庫県関係者は「とにかく電力の安定供給が第一。作るのもやめるのも原発との兼ね合いだった」と振り返り、続けた。
「脱炭素も重要だが、電気がないと暮らしも経済もない」
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市街地の近隣に立地し、電力需要を支える一方で大量のCO2を排出する神鋼石炭火力発電所の問題を通じて、地球環境と暮らしの在り方を考えるシリーズ「座礁資産」。第2部では、GXで対照をなす石炭火力と原発の関係を探る。(脱炭素取材班)
【神戸製鋼所の石炭火力発電所】 一般企業が電気を電力会社に販売する「電力卸供給事業」が可能になり、2002年、神鋼は神戸市灘区の神戸製鉄所(現・神戸線条工場)で発電所1号機を、04年に2号機を稼働させた。14年、廃止を決めた高炉跡地に増設を発表し、22年2月に3号機が稼働し、23年2月に4号機の稼働を予定する。