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奈良県生駒市の自宅(撮影・後藤亮平)
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奈良県生駒市の自宅(撮影・後藤亮平)

 この春、韓国と北朝鮮による首脳会談が11年ぶりに開かれるなど、朝鮮半島を巡る情勢が大きく動いている。米朝関係は流動的だが、一帯に平和を定着させ、前向きな未来像を描くために、私たちはどう臨めばいいのだろう。祖国分断に対する抵抗運動に関わって日本に逃れ、在日コリアン、そして同じ社会に暮らす日本人が果たし得る役割を発信し続けてきた詩人の金時鐘(キムシジョン)さんを訪ねた。(新開真理)

 -南北首脳会談が実現し、非核化への一歩が踏み出されました。

 「共同宣言を聞いて、こみ上げた。でも日本の世論やメディアは『北に乗せられている』という論調が目立つね。分断の悲劇を半世紀以上抱えてきた同族同士が融和を図ろうというのに、拍手はしないまでも、そしるのはどうか。日本の人はみんな気立てが優しくて折り目正しくて。でもほんっとに(近現代史を)知らない。南北分断に、かつての植民地統治が深く関わっていることぐらいは知らなくちゃならんわな」

 「僕は北の体制を容認できないし、拉致問題は決して許せない。それでも核開発に関する限り、北が常に挑発し、約束を破ってきたという見方は是正する必要があるよね。米韓合同の大規模軍事演習を境界線ぎりぎりで延々やられたら、身構えざるを得ない。北は、朝鮮戦争の休戦協定を平和協定に転換することを何度も提起してきたが、米国は応じてこなかった」

 -時を同じくして、自身の全集(12巻)刊行が始まりました。

 「記憶にないものまで拾い集められて、出版が立ち消えになった『日本風土記2』の原稿も大半がそろって。晴れがまし過ぎるけど、僕の生の痕跡が一本の縄でつながったのかな、と…」

 「日本による植民地統治は36年に及んだが、それが人間をどのように変えるのか、ほとんど関心が持たれていない。僕は標本みたいなもの。自分の国の言葉も文字も知らなかった。創氏改名で名前も金谷光原(かなやみつはら)に。心の芯まで日本語で育っちゃったんだね。若い世代に知らすことができるものはあるんだろうなと思っている」

 -在日コリアンの存在を、一貫して積極的に捉えてきました。

 「在日朝鮮人は、この場合の朝鮮は総称ですが、本国の分断の余波を受けざるを得ず、親子やきょうだいで政治信条や国籍が違い対立する例もままある。しかし、ともあれ共に暮らし、冠婚葬祭も一緒に営んできた。いやが応でも『一つところ』を生きてきた。表現の自由が一定保障された日本で、南北の実情もいち早く知り得る。民族の融和を先取りしている存在だ、と考えてきたわけです」

 -兵庫県立湊川高校(定時制)で、在日外国人として初めて正規教員を務めた経験も。

 「日本の教員との交流組織をつくろうと動いていたところ声が掛かり、1973年、44歳で赴任した。最初は人文地理、2年後から(公立高校で初めて)正規の教科となった朝鮮語を教えたが、生徒の反発は予想以上に強かった」

 「遠足の集合場所の駅にタクシーで来る生徒がいた。何度もぶつかりながら理由を聞くと、駅名が読めない、格好つけて乗っとんのと違うわ!という。朝鮮語やるぐらいなら、新聞が読めるくらいの日本語の勉強をさせてくれ、という切実な要求や。それからは両国共通のことわざとか、半分日本語の授業みたいになって朝鮮語は進まなかったなあ。でも授業を受けた子らの生涯で、朝鮮は縁のない存在ではないわな。散々、手を焼かせたやつが、遠方の講演に嫁さんと子どもを連れて来てくれたりする。じんとするよ。ただ、たくさん配慮をいただいたんだけど、しんどかったなあ、ほんとに」

 -そして21世紀の朝鮮半島と日本。望ましい針路とは。

 「国家的統一には年月が必要。だけど同族同士が会って地声で話し合える関係ができれば、これは実質的な統一なのよ。そして開かれた国である日本との関係修復が進めば、北には必ず風穴があく。日本は有力な交渉カードを持つ国。この歴史的な出来事を、チャンスとして生かしてほしい」

【キム・シジョン】1929年、韓国・釜山生まれ。済州島での「4・3事件」に関わり49年、大阪へ。詩作しつつ湊川高校(73~88年)、神戸大学(78~90年)で教員を務める。高見順賞など受賞多数。

     ◇

【記者のひとこと】伺った日は雨。なのに、自宅の前に傘を差して待つ姿があり、恐縮した。苦難に満ちた半生を語る口ぶりはとつとつと、控えめ。「詩は書かれなくても存在する。いちずに生きることが詩だ」という言葉が心に残る。

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