経済
兵庫発「業務スーパー」拡大 常識破りの店舗運営
開業から20年で900店舗迫る
兵庫発祥の小売チェーン「業務スーパー」が勢力を拡大している。1号店の誕生から20年で国内900店舗に迫り、新型コロナウイルス禍も追い風にする。大きな特徴が「業者が使う食品を仕入価格で販売する」という安さ。運営する神戸物産(兵庫県稲美町)の2代目社長、沼田博和氏(40)は「常識を常識と考えない。業界から見ればかなり非常識な部分があると思う」と、躍進の裏にある精神を語る。(記事・三島大一郎、写真と動画・辰巳直之)
段ボール箱ごと商品陳列

神戸市西区の「業務スーパー 伊川谷店」。店内は、かごに商品を山積みにした客らでにぎわっていた。「いつ来ても安い。家族に食べ盛りがいるので助かります」と30代主婦。業務スーパーの利用客は、業者が1割で残り9割は一般の消費者だ。
沼田社長は、安さの要因の一つに販売管理費の圧縮を挙げる。業界関係者によると、一般的なスーパーの売り上げに占める販管費の比率はおおむね20%前半という。一方、業務スーパーの標準的な店舗は14%。常識にとらわれない店舗運営で非効率的な業務や商品のロスを徹底的に排除することで、抑えられているとする。

象徴する風景が「箱陳(はこちん)」だ。菓子や常温食品を段ボールに入ったまま陳列する。スーパーの常道では、賞味期限の早い商品を棚の手前に並べ、新しい物を後ろに納める。ただ、従業員にとっては回転の良 い商品であればあるほど時間を取られる。業務スーパーはそこを問題視し、売れ筋商品ほど段ボールで、となった。「大切なのは見栄えではない」と沼田社長。曜日ごとの特売日は基本的に設けず、広告費を抑えている。販管費を低くできればその分を価格に反映できる。
見栄えよりも無駄の徹底排除

「ワンウェイ(一方通行)」というルールもある。通常、売り場の棚がいっぱいになれば端数は倉庫に戻し、減れば補充する。業務スーパーでは従業員の作業量を減らすため、原則、1度売り場に持ち出した商品は全て並べきる。このため、売り場の冷凍ケースはメーカーと共同開発したオリジナルで、商品が全て入るように、一般的なケースより数十センチ深くしてある。
商品が納まらない場合は、別の商品の陳列場所にはみ出して並べることもある。沼田社長は「冷凍カリフラワーの所に冷凍ブロッコリーが入っていてもOKにしている」と、こともなげだ。
安さの訳は品ぞろえにもある。
品数、ブランドは競わず

業務スーパーは、食品スーパーとしては極端に品数が少ない。店頭に並ぶ商品数は約2500アイテム(生活協同組合コープこうべの主要店舗は約3万アイテム)。絞り込んだ商品をまとめ買いすることで価格を抑えている。
例えば、しょう油の「キッコーマン」やマヨネーズの「キユーピー」など国内ナンバーワンブランドの商品をほとんど取り扱っていない。沼田社長は「ナンバーワンブランドは確かに売れる。ただ他店との価格差を付けにくい。そういった商品はよそのスーパーで販売してもらって、うちは味と価格を見て業務スーパーに最適なメーカーを選ぶ」と言い切る。
生鮮品の取り扱いは店ごとの裁量

店舗展開はスーパーで例がないというフランチャイズ(FC)方式を採用し、神戸物産自体は生鮮品をほぼ扱わない。店頭で生鮮品を販売する加盟店もあるが、これらはオーナーが独自に仕入れた商品だ。賞味期限が短い生鮮品は、値引きや廃棄によるロスが避けられないため、加盟店ごとの裁量に任せている。同社は冷凍食品や缶詰、レトルトなどを大量に取り扱うことで効率化しているのだ。
商品の仕入れでも無駄の排除を徹底し、中間業者を通さず、神戸物産がメーカーと直接取引する。輸入品も中国、米国、フランス、イタリアなどの現地工場と同社が直接やり取りする。商品は大型コンテナにまとめて船で一気に運ぶ。
加盟店料1%

独自の店舗運営を語る沼田博和社長
そもそも、なぜFC方式か。利点は、直接投資をしなくても新規出店ができ、閉店時のダメージが少ないことだ。新型コロナウイルスなど外的要因によって直営店が打撃を受けると、経営本体の財務が急速に悪化するが、そうしたリスクも小さい。
一方、オーナーに利益を分配するため取り分は限られる。神戸物産の加盟店料は卸値の1%。営業時間は縛らない。昨年末時点で161店舗を出店する大口オーナー、G-7ホールディングス(神戸市須磨区)の担当者は「加盟店料の安さは魅力。営業時間を含め、オーナー側の自由度がある程度高いので加盟への敷居が低い」と話す。
沼田社長が力説する。「ロイヤルティー(加盟店料)でもうけようという契約ではない。うちはあくまで製造、卸で利益を出す」。人手を必要とする店舗運営や労務管理はオーナーに委ねる。商品開発やサプライチェーン(部品の調達・供給網)の強化に特化し、ヒット商品を生み出した。
ウェブ連載「業務スーパーを創った男 沼田昭二氏独占インタビュー」はこちら
「業務スーパー」と神戸物産 1985年設立。2001年、神戸物産に社名変更。00年3月、兵庫県三木市に「業務スーパー」1号店。フランチャイズ方式で、20年末時点で宮崎県を除く全国46都道府県に計896店舗。神戸物産が国内メーカーから仕入れた商品と、国内23カ所の自社工場や海外の協力工場で製造したプライベートブランド(PB)商品を供給。東証1部上場。20年10月期連結決算で売上高が初めて3千億円を超え、利益とともに過去最高を更新。資本金6400万円。従業員数1372人(20年10月末現在、グループ会社含む)。