2024年度神戸新聞広告賞

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審査委員長 難波功士
(関西学院大学社会学部教授)

 2025年は、戦後80年目にあたり、阪神・淡路大震災から30年の節目の年でもある。この間のメディアの変化についてふり返るならば、まず戦後の復興とともにテレビの台頭・普及があり、次いで震災時にはまだその姿もおぼろげだったネットの急速な浸透があった。メディアのデジタル化、ネットワーク化、モバイル化が急速に進み、活字・印刷媒体としての新聞は、いよいよ「レトロ」の領域に入りつつあるのかもしれない。ペーパーレス時代の到来とともに、ニュースペーパーはいよいよレガシーとなりつつあるのかもしれない。だが新聞がどのようなかたちになるにせよ、言論・報道を祖業とする以上、その強みや独自性は「文字/文章の力」であり続けるのではないだろうか。
 今回の最優秀賞「チーズと言えない植物性について」にしても、金賞「阪神甲子園球場100周年」にしても、すぐれて「読ませる広告」であった。銀賞の2作品もしかり。スマスイを惜しむ気持ちや、この一年への感謝の気持ちがストレートに伝わってきた。またクリエイター賞「私たちのチタン」篇も、チタニウムを表す「T」の文字を力強くメッセージするとともに、ボディコピーにおいてその製品への深い思いが綴られている。
 数多くの映像が、瞬時に消費され、忘却されていくような現在のメディア環境にあってこそ、新聞(広告)のもつ「文字/文章の力」はその意義を発揮し、その存在を際立たせていくのではないだろうか。そして、新聞記事・広告が繰り返し読まれ、参照されていく未来もあり得るのではないだろうか。今回の受賞作からは、そんな感想や希望を得ることができた。
 メディア生態系の転換の中で、一時はテレビに駆逐された感のあったラジオや映画は、21世紀に入り新たなプラットフォームやディバイスを得て、息長く存続・復活している。新聞も保つべきところは保ち、変えるべきところは変え、発展・進化を遂げていくことを期待したい。